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そこで門脇は
「どういうことだ?!」
と家永に聞いた。
「平野は、元々はかなり粗暴なんだ」
門脇に真剣に答える家永だったが、
「おい、家永。なにげに人を貶めるな」
ベッドの上で怪訝な顔をして知己が諫めた。
知己に構わずに家永は続けた。
「学生の頃だったけど、性的に扱われるとめっちゃ切れやすかった。結構こいつに迂闊なことを言って、ボコられたヤツは多い」
(……なんだ。人のこと、どうこう言えないじゃねーか)
と、門脇は密かに思った。
「だけど、俺、今までこんなに叩かれたり殴られたりしたことないぜ」
「それは君が平野の教え子だったからだろ? 俺は平野がずいぶん大人になったなーって思ってたくらいだ」
「あ、そうか! 門脇は生徒だったから、そういう対象じゃなかったってことか」
合点がいって菊池が言うと、長年それを悩んでいた門脇がギロリと視線で殺せそうな勢いで睨んだ。
「……何を、ごちゃごちゃと」
すっかり当人は蚊帳の外だが、ベッド脇で三人の会議は続いていた。
「多分だけど、平野は一時的に混乱している。多分……よくテレビで見る記憶喪失ってヤツじゃないかな?」
「確かに一回、死んだもんな。門脇の所為で」
「うるさい、菊池。だけど家永先生。そんなドラマみたいなことが簡単に起こるもんなのか?」
「脳っていうのはデリケートなもんで、特に記憶を司る器官の『海馬』は割と簡単にダメージを食らう。酔っ払いが記憶をなくすってのは、君達もよく聞く話だろう?」
「確かに。酔っ払いの話はありがちだな」
門脇と菊池がうんうんと頷く。
その後に家永は、チラリと知己を見て
「こいつに関して言えば、酒を飲むとすぐに記憶を失うからな。その素質は十分ある」
ぼそぼそと言った。小声で言ったにもかかわらず、知己は聞きつけて
「ちょ、家永ぁ!? 人の悪口を当人の前でペラペラと……!」
と苦情を言ったが、本当のことなのでそれ以上強くも言えずに、最終的には知己は「ぐぬぬ……」と布団を握りしめるだけに終わった。
「ところで、なぜ家永先生はそんなに脳のことに詳しいの?」
菊池が聞くと
「興味があったんで、たまたま脳科学の本を読んだことがあったんだ」
家永が答えると、確かに研究室にそのような本が積まれていたことを門脇は思い出した。
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