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「男同士のキス……思ったよりも嫌じゃなかった」
「はあ?!」
思いがけない話に、家永は頬杖をカクンと外した。
「お前、一体、何を……!」
珍しくとっちらかって、うまく言葉が出てこない家永に
「変に思わないって言ったくせに!」
知己は涙目になって抗議した。
(門脇君は「俺が王子様だ」とほざくわ、平野はファーストキスが男だと嘆くわ、その所為で看護師さんに疎まれて……だのに、一体、何だ? まさか、本当に命助けられたってことで門脇君のことを……?)
と思ったが、そんなこと今の知己に言えるわけがない。
だが、とりあえず
「爬虫類になったくせに」
とだけは言い返した。
布団被って丸くなったあの拒絶の仕方は、亀そのものだった。
「いや、そうだけどっ……お前なっ、まだ続きがあるのに……!」
「あ、そうなのか。すまん。話の腰を思いっきりへし折って」
素直に謝る家永に、知己は疑わし気な視線を送った。
「もう変に思わないから、続きを言え」
「やっぱり、変に思ってたんじゃねえか」
「変と言うか……これ、多分……」
嫉妬だ、とはとても言えずに家永は黙った。
その沈黙を知己は、この後は黙って聞くという意味と判断した。
「俺だって、変なこと言っていると思っているよ」
とても家永の顔を正面切って見ることはできない。
わずかに視線をそらし、知己は家永の横に位置するベッドの手すりを見つめていた。
「あの時はショックで騒いでしまったが、なんというか……違和感がないっていうのかな? そこまで嫌じゃなく、俺、こういうことするのがアタリマエだったんじゃないかと思った」
赤い顔を上げて知己は思い切って告げた。
「もしかして、俺、男と……その付き合ってた? 恋愛関係にあった?」
「……」
家永は、ぶっちゃけ、なんと返事したらいいのか分からない。
どんな顔して聞けばいいのかも分からない。
(門脇君のキスが引き金で、記憶が少し戻ってきているのか)
だとしても、腹立たしい。
奔放な行動で知己をこんな目に遭わせたくせに、それなのになぜ門脇が。
怖がっているようにも見えたが、実は好きになりかけててあえて避けていたパターンだったか。
そして、思う。
なぜ、自分だけがその対象ではないのか。
親友でいいと割り切っていた筈なのに、心がどこかで悲鳴を上げている。
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