慶秀大学海浜研究所 9

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「男同士のキス……思ったよりも嫌じゃなかった」 「はあ?!」  思いがけない話に、家永は頬杖をカクンと外した。 「お前、一体、何を……!」  珍しくとっちらかって、うまく言葉が出てこない家永に 「変に思わないって言ったくせに!」  知己は涙目になって抗議した。 (門脇君は「俺が王子様だ」とほざくわ、平野はファーストキスが男だと嘆くわ、その所為で看護師さんに疎まれて……だのに、一体、何だ? まさか、本当に命助けられたってことで門脇君のことを……?)  と思ったが、そんなこと今の知己に言えるわけがない。  だが、とりあえず 「爬虫類になったくせに」  とだけは言い返した。  布団被って丸くなったあの拒絶の仕方は、(爬虫類)そのものだった。 「いや、そうだけどっ……お前なっ、まだ続きがあるのに……!」 「あ、そうなのか。すまん。話の腰を思いっきりへし折って」  素直に謝る家永に、知己は疑わし気な視線を送った。 「もう変に思わないから、続きを言え」 「やっぱり、変に思ってたんじゃねえか」 「変と言うか……これ、多分……」  嫉妬だ、とはとても言えずに家永は黙った。  その沈黙を知己は、この後は黙って聞くという意味と判断した。 「俺だって、変なこと言っていると思っているよ」  とても家永の顔を正面切って見ることはできない。  わずかに視線をそらし、知己は家永の横に位置するベッドの手すりを見つめていた。 「あの時はショックで騒いでしまったが、なんというか……違和感がないっていうのかな? そこまで嫌じゃなく、俺、こういうことするのがアタリマエだったんじゃないかと思った」  赤い顔を上げて知己は思い切って告げた。 「もしかして、俺、男と……その付き合ってた? 恋愛関係にあった?」 「……」  家永は、ぶっちゃけ、なんと返事したらいいのか分からない。  どんな顔して聞けばいいのかも分からない。 (門脇君のキスが引き金で、記憶が少し戻ってきているのか)  だとしても、腹立たしい。  奔放な行動で知己をこんな目に遭わせたくせに、それなのになぜ門脇が。  怖がっているようにも見えたが、実は好きになりかけててあえて避けていたパターンだったか。  そして、思う。  なぜ、自分だけがその対象ではないのか。  親友でいいと割り切っていた筈なのに、心がどこかで悲鳴を上げている。
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