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家永の壮絶なキョトン顔に
「……違うのか?」
知己が不安そうに再度尋ねた。
ここに来て自分の仮説を否定されたような、ついでにいうと、ある意味渾身の告白を断られた形になって、明らかに動揺し、落胆した。
「ち……、違わない!」
思わず家永は言った。
もはや脊髄レベルの反射だ。
途端に知己の顔が、ぱあっと華やいだ。
「やっぱりそうか。そうだと思った。ああ、良かったー!」
と言ったかと思ったら、今度はぱたりと上半身を折り畳んで、ガラケーのように二つ折りになって布団に伏せた。
「……」
浮き沈みが激しいというかなんというか。
今度は無言になった知己に、家永が心配して声をかける。
「平野……?」
「……よ……」
「?」
「よ……良か……った……ー……」
同じ言葉を、今度はゆっくりと呟く。
顔をとても上げていられない知己は布団に伏せたまま、家永からの告白OKの喜びをかみしめているかのようだ。
(何? この可愛い反応……)
平野知己とは18歳の時からかれこれ12年の友人関係だが、こんな知己の反応は見たことがなかった。
家永は外見30歳、中身20歳の平野知己の意外な一面に、どうしたらいいのか戸惑った。
(と、いうか……俺、反射で嘘を吐いてしまったが……)
ほんの少しの後ろめたさがあったが、知己の方はというと
「……良かった。相手が家永で」
と喜んでいる。
布団から顔をほんの少し傾けて目だけを覗かせて、家永を見つめている。
もはや訂正を入れることなど、できなかった。
「なあ、家永」
突然、またもやがばりと起き上がる。
(なんなんだ、この忙しない可愛い生き物は)
と家永は思う。
知己の方は、ひたすら嬉しそうに……例えるなら犬。知己に尻尾が生えていたら、ちぎれんばかりに振っているのが見えそうな……そんな様子だ。
そんな知己を見ていると、家永にもワクワクするような甘い感覚が胸に満ちてくる。
「なんだ?」
家永が返事をすると、すかさず知己が
「その……俺は門脇さんと初キスしてしまったと思ってショックだったんだが、それって間違いだったんだよな?」
と訊いてきた。
「は?」
(なぜ、そんなことを聞くんだ?)
男は初物に弱いと聞くが……20歳の知己は、そんなことに関心が大のようだ。
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