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改めて家永は、ちゅっと今度こそ唇を重ねるだけの軽いキスをした。
すると、業を煮やした知己が襟から手を放して家永の首に腕を巻き付けてきた。
「んっ……」
数度、顔の角度を変えて啄むようなキスをしていたが、首から腕を回して全体重を預けた知己の体がまるで家永を引き込むように、二人はベッドに雪崩れ込んだ。
「……!」
家永は咄嗟に知己の体を潰さないよう、両腕を付いて体を支えた。
だがそれを目の端で捉えた知己は、
(……こ、の、堅物がーっ!)
と逆に意地になって、今度は家永の唇の隙間から舌を割り込ませた。
「ふ……、ん、ぅ……っ」
どちらからか分からない吐息だけが、わずかに漏れた。
やがて淫靡な水音が耳に届き始めた頃には、家永はベッドマットについていたはずの腕を知己の肩と腰に絡めていた。
ピンポーンと病室のインターフォンが鳴るまで、二人は夢中でお互いの息を奪うような口づけを交わしていた。
「平野さーん、午後の検温と回診です」
看護師さんの声だ。
「あ、すみません。……ちょっ、ちょっと今は……あの、見舞の者が……」
慌てて知己が返事をした。
つくづくマイク越しで良かった。
今の上気した顔や主に下半身がガチガチに変化した体を見られては、困る。
何をしていたか一発でバレる顔で、上がった息を整えながら、努めて平静を装って知己が答えると、居心地悪そうに家永もそそくさとベッド脇に戻って居住まいを正した。
「あ、じゃあ順番を最後にしますね」
という看護師の提案に
「お願いします」
と見えぬと分かっていながらもペコリと頭を下げた。
そして、今度は知己が壊れかけの機械のように首をぎこちなく巡らせて家永を見る。
「……お前、な」
家永の呆れたような口調に
「いや、お前が悪い。あんな中途半端なことしやがって」
全部を言わせまいと知己は口を挟んだ。
一種の照れ隠しだ。
それなのに、家永は容赦なく
「門脇君とのキスがファーストキスだなんだと騒いでおいて、二回目でアレか?!」
とツッコむ。
「ぎゃー、そんなこと言うな! なんか俺がスレた男みたいじゃないか!
お、俺だって正直、驚いているんだからな」
慌てて知己は家永の口を塞いだ。
「……ぁ」
手の平に家永の唇の感触が伝わり、知己が赤くなった。それにつられ、家永も赤くなる。
さっきまで濃厚な大人キスを交わしていたとはとても思えないほど、お互いに真っ赤になって俯いた。さしずめ初めてキスを交わした中学生か何かのようだ。
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