242人が本棚に入れています
本棚に追加
「うーん。さすがに俺だってお前の暗証番号なんか聞いたことないぞ。お前の誕生日とかなんか、それっぽいもの入力してみろよ」
「大雑把だな、家永。
ところで、数字押すボタンはどこだ?」
知己は、携帯をひっくり返したり横から眺めたりして、ガラケーの数字ボタン的なものを探していた。
「ボタンはない。タッチすればいいんだ」
「タッチ……」
いまだピンと来ないのか、知己が携帯をぼんやりと眺めた。
「なんか……エッチだな」
知己が頬染めて言うと、家永は
(思ってたのと違う方向で考え込んでた)
と呆れた。
20歳というよりは、思春期の中学生思考に近い知己に
「なぜ、そうなる?」
家永が軽く眉間にしわを寄せる。
「冗談だって。これだからAV嫌いは……」(※1)
聞こえるくらいの小声でブツブツと文句を言いながら知己は、スマートフォンという名の未知の文明機器にタップを試みた。
そこでふと、
「あ。もしかして……触ってほしいのか?」
家永が時差あって思いついたことを言えば、知己から
「……………………冗談だってば」
奇妙な間のある返事があった。
「1、2、2、5」(※2)
NG音が響く。
「ダメだ、開かない」
がっかりする知己と対照的に
「そうか」
家永は、ほっとしていた。
ほっとした瞬間に、家永は激しい自己嫌悪に襲われた。
知己が幸せならいいと思っていたのに、やはりどこかで知己が欲しいと願っている。
今の、この状況を喜んでいる。
(なんて狭量なんだ、俺は)
へこむ家永を尻目に知己が
「んじゃ、0、3、2、1」(※3)
と再度試みていた。
だが、やはりNG音が響くだけだった。
「これも違うかー」
残念そうに呟く知己を、家永は
「……平野……っ!」
思わず抱きしめていた。
(※1)家永は平野知己そっくりのアダルト女優「平賀朋」鑑賞会で目を背けていたことがあるので、AVが嫌いなんだと知己に思われています。
(※2)知己の誕生日は12月25日です。
(※3)家永の誕生日は3月21日です。
最初のコメントを投稿しよう!