慶秀大学海浜研究所 9+α

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慶秀大学海浜研究所 9+α

【知己SIDE】  家永は「ちょくちょく時間を見つけてくる」の約束通り、夕食済ませた19時頃に、またもややってきた。  いや、家永に会えるのはめちゃくちゃ嬉しいけど……実験はちゃんとやっているんだろうか? 「メインの実験は終わっているからいいんだ」  と言うけれど、俺の所為で捗らないのはちょっと嫌だな。  しかも、今度はあの門脇と菊池ってヤツらも連れてきた。 「こいつも行きたいって、うるさいから」  ちょっと困り顔の家永が親指を立てて、背後の門脇って男を指す。 (なぜ、家永はこいつの言うことを聞くんだ?)  きっと、こいつに弱みでも握られているのだろう。 「門脇さん……だっけ? 見舞いに来てくれてありがとう。でも、俺はもう大丈夫だから。余計な気遣いなら無用だ」  俺は命の恩人だけどついツンツンして「余計なお世話」感出して言ってみた。  だが全然分かってくれず、それどころか 「いや、俺を『門脇さん』って呼ぶ時点で、全然大丈夫じゃねえ」  とまで言い出した。 「先生は、俺をそんな風に呼ばねえ」  そうか。こいつら、俺の教え子だったっけ。  せっかく教えてもらったけど、まだ実感湧かない。  確かに俺は在学中に資格取れるんならと教員免許取得を狙っている。  だけど、俺、本当に先生になったんだなぁ。  そして、ちょっと怖いこの人の先生をしてたのか……。  そっか。  そうか……。  ……就職希望、変えようかな。 「じゃあ俺は、門脇さんのことをなんて呼んでたんだ?」  この人(門脇さん)がうるさいから、ちょっと訊いてみた。 「か……」  口を開きかけて、門脇さんは少し考えて 「『蓮』だ」  と言った。 「は?」 「俺のこと、『蓮』って呼んでた!」  めっちゃキリっキリっと答えているけど 「嘘つけ。そこで欲望を曝け出すな」  即行、家永が否定していた。 「やっぱ、こいつらと会っても記憶は戻らんみたいだな」  家永がしんみりと門脇さん達を見た。 「何、言ってんだ。俺はお前との……」 (ち……チッスじゃなきゃ記憶が戻らないのに)  とは、とても人前で言えない。 「平野、どうした。何故、赤くなっている」 「うるせえ。デリカシー無し()」 「デリカシーな塩? 塩化ナトリウムがどうした?」 「先生、朝方いっぱい摂取したよな」  俺と家永の会話に、平気でずかずかと入ってくる門脇さんに 「うるさいな、門脇さんは黙ってて」  と言うと、 「違う。俺は『蓮』だ!」  門脇さんが詰め寄ってきた。  ああ。もう、本当にうるさいな、この門脇蓮って人。  記憶が戻ったら一番に就職課に行き、就職希望調査の書き換えをしようと俺は思った。          ―9+α・了―
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