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「脅されてなんかいないが?」
「え? じゃあなんで彼の言う事をホイホイ聞いてんだ?」
「ホイホイって……」
今度は家永が苦笑いだ。
一体、知己の目にはどう映っているのだろうか
「いや、彼とはウィンウィンの関係だ」
「え? あれ? 弱み握られているんじゃないのか?」
キョトンとする知己に
「そんなことはない。彼の入学当初は何かとまとわりつかれて困ったなと思ったこともあるけど、正直、門脇君には助けられてばかりだ」
家永が説明した。
「お前が、そんな風に言うって……」
家永は主観的にものを語らない。いつも科学者として客観的に物事を見ている。
(家永が認めている男……!)
よほど門脇が有能なのだと知己は理解した。
そして、その瞬間から割り切れない思いに駆られた。
「……」
「どうした?」
俯く知己を心配して、家永は部屋の隅のパイプ椅子さえ出さずにベッド脇に寄って知己を覗きこんだ。
だがその急いた行動に、知己は
(ここに長居する気はない……。あいつが待つ海浜研究所に早く戻りたいんだ)
と思った。
ジリジリと胸の奥が焦がれる。
(嫌だな、こんな気持ち)
知己が布団をぎゅうっと握りしめると、家永はベッドに身を乗り出すようにして心配そうに見つめた。
柳眉寄せて苦しそうな知己に
(また、頭痛が来たのか?)
と思っていた。
「……す……」
思いつめたような知己が、声を絞り出した。
「……好きなのか? あいつのこと」
「は?」
「俺よりも……好きなのか?」
12年間長く付き合う親友の、見たことのない表情だった。
友人関係で言えば、家永は広く浅く人間関係を築くタイプだが、知己は少人数とだけ付き合うタイプ。だからと言って親友の家永を拘束せずに、誰と付き合おうが何をしようが文句もない。それはそれで割り切っていた。
(こいつ、こんな顔をするのか……)
根っからの研究者体質が災いし、思わずマジマジと知己の顔を眺めてしまった家永に
「なんだよ。そんな顔して、こっち見んな!」
知己の怒声が飛んだ。知己はその後によほど見られるのが嫌だったのか、ぷいっと家永と反対側の窓の方を向いて外を眺めた。
「平野……お前……」
そんな知己に家永は
「……可愛いな」
またもや淡々と観察結果を報告してしまった。
瞬間、くるりと家永の方を向いた知己が
「う、うるさいな! 男が『可愛い』とか言われて喜ぶとでも思ってんのかよ!」
やっぱり怒鳴るが、頬が朱に染まって口元が微妙に緩んでいる。
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