ゲーム 開始 6

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 研究生でもないのに、何が面白いのか、毎日のこのことやってくる風評被害の原因たる門脇。  そこで家永は「せっかく来ているのだから」と、少し実験を手伝わせてみた。すると、1年生ながらも門脇は実験の意図を即理解し、しかも顔と口に似合わぬ丁寧な仕事ぶりだった。 (……と、この間言ってたな)  家永は、門脇の優秀さと有用性に気付き、とうとう今日は本格的に実験に駆り出しているらしい。 「さっき『来れない』って言ったよね?」  写真を見て嘘ではないと理解した章が、携帯かざす知己に言った。 「ああ」 「正しくは『来れない』だね? 先生」 「ぐ……」 『ら』抜き言葉の章のツッコミに、知己は一瞬言葉が詰まった。 「そ、……そうとも言う」 「素直に認めなよ」  章が目を細めて笑う。生徒に突っ込まれて、少し恥ずかしいが正しい日本語は章の指摘通りだ。 「分かった。『来、ら、れ、な、い』!」  知己が言い直すと 「あはは! マジ、素直!」  自分で仕向けておきながら、章は大げさに喜んだ。  演技かかった章と、やりこめられた知己を眺めていた俊也に 「だから、お前ら。ここに居ても時間の無駄だぞ」  すげなく知己は言った。 「あー、傷つくなぁ。追い出すのぉ?」 「俺達、ここに居たいだけなのに」 「寂しかったら居てもいいって、あの時言ったくせに」  俊也と章、口々に文句を言い始めた。こういう時だけ、やたらと気が合って騒がしくなる。 「だったら、お前らもなんかしろ」  と知己が言うと 「何、それ?」  大仰に騒いでいた二人の動きが、ぴたりと止まる。 「門脇と一緒だよ」 「うーん?」  二人同時に首を傾げている。  なんだかんだで気の合う二人なのだろう。 「『働かざる者食うべからざる』……つまり、働いたら食ってもいいってことだよな?」 「そうなのか?」  俊也が章に振ったが 「さあ」  と章は答えた。 「だから、『働いたら居てもいい』ってことだ」  知己は教科書に目を落としつつ、言った。今日は、明日の準備に余念がないのか、あまり章達にかまっていられない様子だ。 「かなり都合いい解釈のような気がしないでもないけど、まあ、いいや。何すればいいの?」 「そこのコンテナの中」  見ると、ロッカー脇に大きなコンテナが3つ置いてあった。 「?」 「今日使った実験器具、お前らが片付ける用にとっておいた」 「めちゃめちゃ当てにしてんじゃねーか」  すかさず俊也はツッコんだが、ブツブツ言いながらも、章と二人、コンテナの前に座り仲良く片付け始めた。
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