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「声だけは押さえとけよ」
「うん……」
涙目になった知己が答えた。
その知己の眉根を寄せる表情に軽く煽られた家永が、知己の耳元から首筋へと唇を移した。
「ん……、ん、ぁ……」
胸からのじれったい刺激と、ゆっくり食むかのように動かされた首筋から鎖骨への家永の唇の緩い刺激に、知己が抑えようとしても苦し気な吐息が漏れた。
あまりの苦しそうな表情に、家永が顔を上げて
「大丈夫か?」
と気遣った。薄く目を開けた知己が
「聞くなよ……」
と謗る。
「頭痛は……?」
念を押すかのように家永に聞かれて
「ない!」
と知己は俯きながらも即答した。
どうやら照れ隠しのようだ。
(なんだ? この可愛い生き物は)
家永がうっかり観察に入ってしまった。
赤くなって俯く知己に家永が無遠慮な視線で眺めていると、
(早く、続きをしろよ!)
とはとても言えずに知己が
「……その代わり」
と続けた。
「代わり?」
今度こそ心配になって聞く。
「やっぱ、俺、家永と付き合ってたんだと思えた。こういうの……普通にしていたんだって思えて……」
そう言われて、今度は家永の方にかっと頬に朱が挿した。
(記憶のすり替えだ……)
知己の朧げな記憶が蘇りつつあるが、家永と恋人関係にあったと知己が思い込んでいることで、将之の記憶の部分が家永に上書きされている。
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