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中位将之という人物 2
「わー。本当に来た」
昼食を終えて、しばらくすると面会時間になった。病院には見舞に訪れた者がチラホラと見え始める。それと同様に、家永は朝も来たというのに知己の元を訪れた。
確かに「知り合いが家永しかいないので不安だ」とは言ったが、こうもちょくちょく面会に来るのもどうか。
他の人は、日に1度来るか来ないかくらいなのに、家永は面会時間も無視して来る。
少し来過ぎではないか?
「気持ちは有難いが……ちょっと過保護じゃないか?」
約束通りに来たというのに、家永は歓迎されてないように思えた。
「なんだ? 来てほしくなかったみたいだな」
「来てはほしいが、……ぶっちゃけ家永の実験の方が気になる」
「そうだな。門脇君は本当に優秀だ」
「なんで、そこで彼が出る?」
イラリとした感情を隠せずに知己が訊くと
「困ったときにSOS出せるのは、優秀な証拠だよ。あのまま、適当に辻褄合わせて続行されてたら、トンデモナイ結果になってた。そうなると、仮説から見直さなきゃならない」
家永は至極真面目に答えた。
知己を煽っている訳ではない。
「平野に『優秀な学生をありがとう』と礼を言っているつもりなんだが」
「10年後の俺に言ってくれ」
同級生だった家永が、今は大学に残って准教授になっていること。門脇は知己の教え子で、家永の元に進学し、優秀な成績を納めていることは教えてもらったから分かるものの、いまだにピンとこない。
「合宿終わるの、後、二日って言ってたよな?」
「うん? そうだが?」
「じゃあ、後、二日ならもう来なくていい」
昨日と言っていることが、あべこべだ。
「どうしてそんなことを言うんだ?」
家永が尋ねると
「……俺が家永の枷になるのは、嫌なんだ」
少し言いにくそうにして、知己は言った。
施設利用可能な時間は限られている。海浜研究所の実験機器を有効利用してほしい。それは10年前も学生時代に経験していることだから、今の知己にも家永の貴重な時間を奪っていることは分かっていた。
「そんな風に思わなくていいのに。今回の合宿に誘ったのは、俺だし」
「そう言われるのが、嫌なんだって」
義務で見舞に来てほしくない。
それを察して
「俺は平野に会いたくて、ここに来ているんだが?」
と家永が言うと、
「お、俺の決心を揺らぐようなことを言うんじゃねえ!」
知己は照れ隠しに怒鳴っていた。
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