中位将之という人物 2

2/12
前へ
/778ページ
次へ
「いいか!」  知己は、家永に向かって指をびしっと突きつけた。 「俺は二日後に退院する。施設引き揚げたらその足でここに来てくれ。一緒にお前の家に帰る」  ふんふんと鼻息荒く言ってはいるが、なかなかにロマンティックな予定を語っている。 「……壮大な計画だ」  家永に大人の余裕で微笑まれて、知己は更にテンパった。 「揶揄うなよ! 本当は……二日も会わないなんて辛いんだぞ」 「20歳の平野は、なかなか可愛いな」 「揶揄うなってばー!」  知己からは照れ隠しの枕が飛んできた。  易々と家永はキャッチして、 「記憶を戻すキスは、しなくていいのか?」  枕を返しに、ベッドの方に歩み寄る。 「……が、我慢する」  差し出された枕を知己はむしり取るように受け取ると 「そうか。じゃあ、俺の用事はないな。帰る」  淡々と家永は言うと、踵を返した。 「ちょっと待て!」  慌てて家永の腕を掴む。 「さっきのは言葉のだ。言葉通りにするやつがあるか?!」  なかなかに拗らせた発言だ。 「20歳の平野は、なかなか面倒だな」  振り返りながら、家永がそれでも面白そうに笑う。 「くそぅ! 大人ぶった言い方しやがって」  唇を噛んで、知己は本音を吐き出した。 「その……俺だって、訳分かんないんだ」 「分からないって……何が?」  また記憶の所為で色々と混乱しているのかと心配になったが、知己は 「お前が帰った後、俺は考えてたんだ。『なんで、男を好きになったんだろう』って」  違った方向で悩んでいたようだ。 (そういえば、こいつ。本来はノンケだったな)  あまりに男にモテるもので、すっかり家永も忘れていた。  学生時代には女性とも付き合っていた。目下、坪根卿子という思い人もいる。 (本人の記憶には、ないみたいだけど) 「で、思ったんだが……」 「なんだ?」 「多分、相手が家永だからだ」 「?」 「男だからとか女だからとか、そういうの取っ払っても、俺が家永のことが大好きだから……だと思った」 「……」  家永に大人の余裕の微笑みは消え失せていた。 「どうした?」  様子が変わった家永を、今度は知己が心配する。 (サラリと「大好き」とか言うなよ……)  思わず口元が緩む。それを隠すように、家永は手で口元を隠した。 「平野……」 「何?」 「その……、二日分、キスしておこうか」  家永の提案に知己は真っ赤になった。  また枕でも飛んでくるのかと思っていたら 「の……、望むところだーっ!」  必死の形相で知己が答えていた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加