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知己は正面に向き直った家永の両腕を改めて掴むと、家永を引き寄せるように、自分は伸びあがるようにして、唇を寄せた。
それに答えるように家永はゆっくりと顔を下げる。
やがて唇が触れると、それを皮切りに家永は知己の腰と肩を強く抱きしめた。
「……ん……」
知己は家永を掴んでいた手を背に回し、半ば強引に体を密着させる。
ぴったりと胸を合わせると、まるで溶け合うようだ。
鼓動が速くなる。だけど、それは家永も同じだ。跳ね上がる心音に血流が増し、鼓膜の奥がぼわっと空気が詰まったかのような錯覚に陥った。
まるで10年も付き合っていた恋人同士の慣れた行為のように、次に口づけた時には示し合わせたようにどちらも口を開いていた。
家永は迷うことなく知己の口内に舌をさしいれると、お互いに絡め合った。
いまだキスにたどたどしさが残る知己は、鼻で呼吸ができないようだ。
「……ん……。ふっ……」
呼吸音と共に濡れた声が漏れる。
水泳の息継ぎのように空気を求めて、口を離した。
呼吸で中断されたキスに、家永が甘い感情に支配されつつも
(……おわり……か?)
二日間知己と離れる寂寥感が胸にじわっと沁みるように湧いて広がった。
だが、知己がすぐに家永の首に腕を回し
「二日分だろ? ……足りてねえ……」
と、体を起こさせないように押さえつけた。
コンコンコン。
不意に最速のノック音が聞こえた。
明らかに形ばかりのノックが済むと、待ちきれないとばかりにスライド式ドアが開けられた。
もちろん、そこにはキスに耽る知己達が現実に引き戻されるよりも素早い行動に、「どうぞ」と言う間も「どなた?」と聞く暇もなかった。
タッチアンドゴー並みの、ノックアンドイン。一連の動作だ。
「先輩っ! 大丈夫ですか?」
病室内の知己の了承も得ずにずかずかと病室に入ってきた男は、ひたすら知己の具合を気にしていた。
キスに耽っていた二人の空間、+来訪者。
「え?」
誰からともなく声が漏れ、三人の動きが止まった。
次に声を出したは、知己だった。
「ぎ……!」
真っ赤になって、慌てて
「ぎぃゃあぁぁぁぁぁ……!」
けたたましいサイレンのような叫び声を残して、家永から離れると、頭から布団をがばりと被った。
(うあぁぁ! キスしてるとこ、人に見られたぁ!)
ベッドの上で甲羅に手足を引っ込めた亀のようにうずくまって、ガタガタと震える。
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