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(ひぃぃぃぃぃ……!)
恥ずかしさに、年甲斐もなく泣きそうになっている。
いや、実際に目は涙で潤んでいた。
「ちょっ……! 何をしているんです?!」
まさに現場に突入してしまった男は目を白黒させていたが、知己の悲鳴で我に返り、家永の腕を掴んだ。
「落ち着け」
腕を振り払いながら家永は冷静に対応しているが、男は
「はあ?! どの口が言います?!」
落ち着けるはずもない。激高していた。
布団被って亀になった知己は、空調効いている病室で、あわわあわわと謎の呟きを発しながら大量の汗をかいていた。
(恥ずかしい! 超恥ずかしい! 超恥ずかしいーっ!)
頭から湯気が出そうだ。
どぉっ!
突然、知己のすぐ横で何かが激しく倒れた音がした。ガシャっという立てかけてあったパイプ椅子の音が続く。
驚いて、知己は布団をわずかに開けて、恐る恐る外を伺い見た。
「……い、家永っ?!」
家永が仰向けに倒れている。
慌てて知己は跳ね起きた。
メガネが飛んで、ベッド下に滑り込んだようだ。運悪く倒れたパイプ椅子が家永の上に落ちていた。
「……ぅ……」
一瞬の出来事と軽い脳震とうを起こした家永は、動くことができない。
わずかに低く唸る家永の口の内側が切れたらしく、端から血が流れ出ていた。
「な、に……?」
事態を把握しようと、無意識に知己は家永と交互に男を見た。
何が起こったのか、理解が追いつかない。
おそらく、この男が殴ったのだと判断した。
「ちょ、あ……、や……」
通り魔的にやってきた侵入者に、家永が殴りつけられ、知己は混乱した。
およそ暴力とは無縁に生きてきた知己と家永にとって、降って湧いた災難に竦んでしまう。
男は家永が動けないほど殴りつけたというのに、瞳には暗い炎を宿し、床に倒れた家永を睨みつけている。未だに収まらない怒りに、殴った拳が震えていた。
(まだ、殴る気だ!)
知己は反射的に布団から飛び出した。
「やめてくれ!」
家永とその男の間に体を滑り込ませた。
「家永! 大丈夫か?」
体の上に倒れた椅子をどけて家永の顔を覗きこむと、家永が「大丈夫」の合図で右手を上げた。だけど、喋れないほどダメージを受けている。
知己は、家永を庇うように男に立ちはだかった。
「何なんだよ、あんた! 家永に何の恨みが……! 出てってくれ!」
思いつくままに言葉を並べると、身長180㎝はありそうな大男が
「……!」
息を飲んだ。
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