中位将之という人物 2

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「……俺が説明する。場所を変えよう。平野が怯える」  家永がヨロヨロと歩いて入口に向かうと、不承不承、男も後をついて行く。 (家永とこの男を二人にしてはまた殴られる)  不安になった知己が 「家永、行くな」  と言うと、男がますます暗い光を宿した目で今度は知己を睨み付けた。 「ひっ……」  次は自分が殴られると思い、知己が思わず身構えた。 「大丈夫だ。説明するだけだから」  家永が知己を慰めるように言うと 「嫌だ。俺も一緒に行く」  怯えて青い顔をしながらも知己が頭を振った。 (この男に何かされそうになったら、俺が家永を守る)  決意を新たにしていると、なお、男の視線が厳しくなったような気がした。 (確実に、火に重油を注いでいるな)  家永は思わず苦笑し、 「ダメだ。頭痛必至の話だから」  と知己に忠告した。 「頭痛……?」  怪訝な顔をして、男が聞き返す。  それには答えずに、家永が知己に諭すように語り掛ける。 「頭痛で済めばいいが……というくらいの話だ。聞いた後のお前の身体が心配だ」 「……うん……」  これほどの優しい家永の言葉に知己は抗う気にもなれずに、 「分かった……」  渋々と引き下がった。 (人目に付かないここ(病室)よりも、色んな人の目がある外の方がいいかもしれないな)  家永の思っていることとは違うことを考えながら、知己は青い顔しつつもジロリと男を睨み返した。 「……あんた、これ以上家永に手ぇ出すなよ」  精一杯強がって釘を刺すと、男は 「なんで僕が悪者なんですか?」  問答無用で家永を殴っておきながら、男はふてぶてしい態度をとっていた。  病室に乱入して、いきなり殴るような男だ。  言うだけ無駄と思った知己は、家永に 「家永、なんかされたら大きな声出せよ」  と警告し、家永はますます苦笑いを浮かべるだけだった。  二人は、病室を出ると談話室に向かった。  面会時間になって見舞客はいるものの、盆が近い所為か入院患者自体が自宅に帰省して普段よりも少ない。そんな中でのあの騒ぎだ。 「301号室から、また叫び声が聞こえる」 「301号室の平野さんって、いつもお見舞いの人が来ると何かしら叫んでいるわよね」 「あれだけ元気だったら、さっさと退院してくれればいいのに」  ナースステーションでは、すっかり悪評が立っていた。
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