中位将之という人物 2

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(なんで平野は、こんなやつがいいんだ?)  と思っている家永に、将之は更に追い打ちをかける。 「大方『好き』とかなんとか言われて有頂天になったんでしょ? むかつくなぁ」 「お前、な……」  隠しカメラでもあったのかと思うくらい的確に言い当てられて、家永もついに反撃に出た。 「言わしてもらうが、お前が俺の立場だったらどうした?」 「はあ?」  「平野から『好きだ』って言われたんだぞ。『付き合っていたのはお前だろ』って聞かれたんだぞ。あの平野が言ったんだぞ。お前だって『そうだ』って答えるだろ? 『キスしたら記憶戻るから』ってねだられたら、即するだろ?」 「しませんね」  きっぱりと将之は言った。そこには何の迷いもない。 「僕だったら、絶対に 『お前には本当の恋人が居る。だから、僕は潔く身を引く』  って言いますね」  あまりにも堂々とした言いっぷりに (こいつ……真性の下衆野郎(嘘つき)だな)  と家永は再認識した。 「さー、もう家永さんの相手なんかしてらんない」  将之は、用件は済んだとばかりに立ち上がった。 「おい、こら。待て。一体、どこに行く気だ?」 「記憶喪失のふりして、家永さんとラブラブしてた先輩をとっちめに行きます」  素直に答える将之に 「お前、俺の話を聞いていなかったのか?」  家永は慌てて腕を掴んで止めた。 「聞いてましたよ、巧妙な言い訳。だから、めっちゃ怒ってます」  家永に掴まれた腕をぶんと力任せに振って外す。 (これだけ言っても、全く信じてない訳か!) 「あいつ、見た目はなんともなさそうだけど、一回は呼吸止まってんだからな。記憶を無理矢理こじ開けるようなマネはやめろ」 「頭痛がするって設定でしたね」 「設定、言うな!」  家永が怒鳴っても、知らん顔して将之は聞いていない。 「記憶をタンスの引き出しに例える。何か引っかかってうまく記憶を取り出せない状態を状態だとする。今回の平野の場合は、その引っかかりが大きいケースと言える。今だって少しずつ用心して開けるようにしている。それを力任せに無理やりこじ開けたら、平野の身体にどんなことが起きるか……!」  タンスで言うと、大きな引っかかりあるまま強引に引き出すと、引き出しは破損し、中身は飛び出すだろう。  容易に想像できる結末だ。  家永は、それを恐れていた。  だが将之は 「……それを信じろと言うのが、そもそも無理です」  と一蹴した。
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