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「ちゃっかり二人で示し合わせてるかもしれないでしょ? 元々この合宿自体が、僕を騙して二人でいちゃつく計画だったと考えられますし、ね」
「だったら門脇君を誘わない」
「あーあ。良い出汁に使われちゃって……門脇君、可哀そう」
両腕を上げて演技過剰に憐れむ将之に
(ああ、もう……!)
とうとう家永がキレた。
「俺は、いつでも平野が好きだってことを全力で応援するつもりだ」
「はあ?」
将之が首をひねる。
「何を言っても平野のことを全く信用してない頑固お坊ちゃんを好きだというなら、それさえいいと思っていた」
「さり気に僕をディスんないでもらえます?」
「だけど、今、平野が好きなのは俺だ。だから俺は、俺を好きな平野を応援する」
「はあ?」
10秒ほどの沈黙。
その後、将之が
「そう。……宣戦布告ってわけですか」
と静かに言った。
にわかに二人の間に緊張が走る。
睨み合う二人の空気を裂いたのが、ぶぅーんという携帯のバイブレーションだった。
家永が胸ポケットから携帯を取り出し、じろりと将之を睨む。すると将之は「どうぞ」と手で合図をして、また椅子へと座りなおした。
「門脇君。どうした?」
『先生、すまねえ。また行き詰った。何がダメなのか、俺にはさっぱり分からねえ』
朝に引き続き、門脇にしては珍しく実験に手こずっている。
「分かった。後、15分したら帰る」
『んなに待てねえよ。知己先生に未練たらたらしてないで、さっさと帰って来てくれよ』
今帰れない状況を、知己に後ろ髪引かれていると思っている。
「無理だ。今、君が思うよりも面倒なことになっている」
『ん? 面倒なこと?
…………………………もしかして、おっさんか?』
門脇は、将之を『おっさん』と呼んでいた。
「弐壱丸丸の定時連絡」から十数時間。
聡い門脇は、そろそろ到着する頃と察したのだ。
「ああ、まあ……そんな所だ」
テーブル挟んでいる為、不機嫌極まりない将之に門脇の声は届いていない。
『あいつ、ややこしいもんな。なんで知己先生、あんな奴がいいんだろ。俺の方が10倍いいのに』
聞こえてはいない状況だが、家永は妙に居心地悪く「んんっ、ごほんごほん」とわざとらしい咳払いをした。
『んで? 知己先生の状況はうまく言えたのか?』
実験のことは、既に眼中にない。今の状況を面白がっている。
「いや、それが……」
頭でっかちの頑固者には話が通じない……と続く筈だったが、家永が何かを思いつき携帯電話をテーブルに置いた。
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