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家永はそっと置いた携帯のスピーカーボタンを押すと、携帯からは何も知らない門脇が話し続けていた。
『おっさん、図体でかい割に中身はちっせえ幼稚園児だもんな。わがままで知己先生独占したがって、勝手にヤキモチ妬いてうるせえし。多分、人間の面倒な部分を精製して凝縮すると『おっさん』ができあがると思う』
トンデモナイ悪口が滔々と流れて、思ったのと違う展開に家永は少しばかり青ざめ、将之は思わず口を開いた。
だが、将之が言葉を発するよりも早く
『あいつ、とにかく自己中だから、いくら言っても知己先生が記憶喪失になって大変なのを理解できないと思うなー。家永先生、説得するの大変だよなー』
と門脇は、やっと家永の予想通りの発言をした。
「その通りだ、門脇君」
家永が静かに微笑むと、将之は不機嫌極まりない顔でそれでも黙って門脇の話を聞いていた。
『知己先生に、これまでの事実をぶっこんで壮絶に苦しめないといいけどな』
「そうだな。ありがとう。
おかげで後2分もしたら戻れそうだ」
『うん? どういう意味?』
「説明は戻ったらする。じゃあな」
と言うと一方的に電話を切って、家永はポケットにしまった。
「その顔、……ムカつくんですが」
と将之が言うと
「君はさっきから俺の言動全てに『ムカつく』しか言ってない。どうせ何をしてもムカつくのだろう」
家永は静かな微笑んだまま答えた。
「事の重大さが分かっただろう? 俺はこれで帰るが、君はくれぐれも一人で平野の部屋に行くことないように」
「今彼のあなたが、立ち会いの元ならいいんですか?」
嫌味を言うと、家永はあっさりと「そうだ」と言った。
「君が余計なこと言っても、俺ならフォローできる」
「大した自信だ」
そう言うと、将之は徐ろに立ち上がって談話室に設置されている自販機へと歩いた。
お茶を一本買うと、席に戻る。
代わりに今度は家永が席を立った。
「お帰りで?」
キャップ開けながら、将之が言うと
「君は帰らないのか?」
と家永が怪訝な顔して聞いた。
「空港から直行しましたからね。僕、機内食以外ほとんど飲まず食わずなんですよ。落ち着いたら喉が乾いちゃって。
あなたの言いつけはきちんと守りますから、安心して門脇君が待つ研究施設に帰っていいですよ」
(なんか、いちいち気に障る言い方するな)
ムッとしつつも、今は門脇の方が気になる。
家永は、将之のことを気にしつつも病院を後にした。
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