中位将之という人物 3

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中位将之という人物 3

「馬鹿正直に帰るわけないでしょ」  家永の姿がすっかり消えてから、将之は空になったペットボトルをゴミ箱に放り込んだ。  機内食以外飲まず食わずは本当のことだったが、もちろんそれだけが目的で病院に残ったわけではない。  何も知らない門脇が言う事は信頼できる。  かと言って、黙って見過ごせる状況ではない。 「先輩の負担にならなきゃ、いいんでしょ?」  と、将之は再び知己の部屋を訪れた。 「ひぃっ!」  知己が舞い戻ってきた将之の顔を見て、大急ぎでナースコールのボタンに手をかけた。 「ご挨拶ですね」  ドラマなどであるダイナマイトを体に巻いている男が追い詰められて起爆装置をぶるぶる震えながら「寄るな。寄ると押すぞ!」に似た感じがした。 (ナース呼ばれるのは、まずいな)  確実につまみ出される。  それどころか下手したら出禁だ。 「ちょっと、それは待って」  将之はこれ以上知己を刺激せぬよう、努めて優しい声をかけた。 「少しくらい話しさせてくれてもいいでしょう。あの……僕のこと、本当に覚えていないんですか?」 「え……?」  初めて知己が将之の顔をまじまじと見た。 「……誰?」  恐る恐る聞き返された。  やはり、思い出せないでいるようだ。 (演技には見えないし、そもそも、この人はそんなに器用じゃないしな) 「僕ですよ。中位将之です」 「……っ?!」  知己の眉間に皺が刻まれる。 「あんた……、俺の知り合い?」  家永に恨み持つ者だとばかり思っていたが、自分の知り合いだったのかと知己が尋ねた。  将之が「そうです」と答える前に、 「あ、頭がっ……痛っ……」  突然、ぐらりとする眩暈と強烈な頭痛に襲われ、知己は布団に突っ伏して苦しみ出した。 「ぐ……っ、ぁっ……」  頭を抱えて苦痛に耐える姿は真に迫り、演技などではない。  知己は急いでベッドサイドから鎮痛剤を取り出し、ペットボトルの水で煽るようにして飲み下した。 「……大丈夫ですか?」  あまり痛む様子に将之が心配そうに聞くと 「……う、ん……」  あまり大丈夫そうではないような返事だ。  顔色冴えないまま知己が 「それで……? あんたは一体、誰なんだ……?」  将之への質問の途中で、「うぐっ……」と口を押えた。  今度は慌ててベッドから降りてトイレに直行。胃から逆流してきた昼食を吐き出していた。
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