ゲーム 開始 6

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(あ、そっかー。俺、こいつのおかげで、多少なりともそういう免疫ができているのかもな)  他の教師が避けるような全生徒による嫌がらせゲームに対して、いくぶん耐性ができていることに、ほんの少し感謝しないでもない。  デスクに座っている知己は、床に座る将之を見下ろす形になった。  ウェーブのかかった栗色の髪。「瞳は心の窓」と誰かが言っていたが、「それ、絶対に嘘ですね」と知己は言いたいくらいの澄んだ綺麗な目は、瞬き数回しながら知己の言葉を静かに待っていた。 (今回は上手く悟られないように話せるだろうか)  不安を抱えつつも、知己は話始めた。 「えーっとな、毎日ゲームをする子がいるんだが」 「はあ。いきなりお堅い話ですね」  ラグに胡坐をかいて、将之は淹れたてのコーヒーを一口飲んだ。  8LDKの将之の家に一緒に住みだして3年目になる。  そのうち一つを知己は仕事用にもらい、実家から持ち込んだ質素な黒デスクとPC、本棚を置いていた。モスグリーンのラグも知己の趣味だ。 「分かりました。毎日するゲームをやめさせたいんですね」  将之はうんうんと頷きながら 「毎日は、体に毒ですよね」  と言った。 (主に体に毒なのだが)  それを説明したら大変なことになる。 (ちょっと違うけど、いいか)  と知己は話を続けることにした。 「俺がそれをやめさせようとするとゲームを自体をやめるんだ」 「? それで、いいじゃないですか」 「でも、それはいたちごっこみたいなもんで、放っておくとずっとしやがる。だから、俺はやめさせようとする。するとまた一旦はやめる。なんだか、こちらの様子を伺っているような気がする」 「じゃあ、ずっとやめさせようとしたらいいじゃないですか」  知己の欲しかった冷静な判断だが、欲しかった答えではない。 「してるよ。でも、やめさせようとしていても、する日もある。だから根本的解決になってないんだ。やめさせる方法は分かっているけど、それを詰めさせてくれない」 「うーん……、その情報量じゃ分かりません。もっと詳しくその子のこと教えてもらえますか」 「……(その子自体が分からねえんだよ)」  知己が答えに窮していると 「そこは言えないんですね」  将之はあっさり引いた。  知己も教師だ。職業上、知りえている情報のすべてを知らせることができないこともあるだろうと、将之は追及しなかった。
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