中位将之という人物 3

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「これから……退院したら一緒に住む約束したんだ」  知己の話は、将之にとって全く意味が分からなかった。 (一緒に住む約束って……?)  キョトンとしていると 「あ、いや、いい。俺の話なんかしてごめん。中位さんには関係ない話だった」  知己が恥ずかしそうに話を終わらせようとする。 「大いに関係ありますよ。どういうこと?」 (一緒に住んでるの、僕でしょ!)  言いかけて、将之は慌ててやめた。  現実を無理に教え込むと知己が強烈な頭痛を引き起こす。 「いや、あの……恥ずかしいな。こんなこと……。その……退院したら、俺、家永んちに住むつもりなんだ」 「はああぁぁぁあ?!」 (珍しくこの人がプライベートな(人の)ことを聞きたがると思ったら……!)  その後の将之の動きは早かった。  挨拶もそこそこに知己の病室を飛び出して、病院の敷地外へと駆け抜けた。  辺りを見回すが、風光明媚なのどかな風景が広がるだけの海沿いの道には、たまに車が通る程度。潮風にさらされたバス停は錆びていて、やっと「病院前」と書かれているのが分かる。それがぽつんとあるだけで、人はいないし来そうにもない。会話しても聞かれる心配はなさそうだと踏むと、屋根のあるバス停のベンチで日を避けながら、将之は家永に電話した。 『ちょっと、家永さん!』 「なんだ。君か。今、手が離せないんだが」  手を尽くしてやっと説得した相手からの電話に、家永の声は心底嫌そうだ。 『なんであなたと先輩が一緒に住むことになってんです?』 「……ちっ」 『今、舌打ちしたでしょ?!』  それには答えずに家永は 「……平野から聞いたのか」  と返事した。 (面倒になったな。平野に口止めしておけば良かったか……?)  だが、後二日もすればバレることだ。いくらなんでも、将之に内緒で引き払うのは難しいだろう。 (でも、あいつがそんなことを人に言うのって珍しいな)  話の流れを知らない家永は、勝手に、知己が「家永との同居が嬉しくてつい誰かに喋っちゃった」というシチュエ―ションを想像して (平野……可愛いとこあるな)  などと呑気に思っていた。
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