中位将之という人物 3

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 幸いにして、知己と家永が目下恋人の関係になっていることを知らない門脇は休憩中。今、実験室には居ない。  これ以上、ことをややこしくしたくない家永は 「今なら君の質問に答えよう」  と言うと、すかさず 『【今、手が離せない】んじゃなかったんですか?』  と将之から指摘が入った。  実際には今は割とゆっくりできる時間だった。だから、門脇も休憩に出している。先ほどの言葉は、将之からの電話が嫌だっただけだ。  それを明確に指摘され、 (いちいちムカつく言い方をするな!)  むっとした家永が負けじと 「手が離せない事態になったら、すぐに切る。なんなら今すぐ切ってもいいが」  と売り言葉に買い言葉で、応酬した。 (この人……本当に腹立つ言い方しかしない……!)  奇しくも、お互いに似たようなことを思っていた。 『一体、何をどうしたら先輩があなたと住むって話になるんです?』 「記憶ない状態で君の所に戻せるわけがないだろう。頭痛祭りだ」  頭痛こじらして吐いてしまった知己を目の当たりにした将之は 『ぐぬぅ!』  と謎の声を上げた。 『だったら、とりあえずご実家でもいいじゃないですか?』 「実家でも同じだ。ご両親の気遣いと平野の体調を考えたら、そうなった」 『うぬぅっ!』  実家のくだりは、家永がたった今思いついた適当な理由だったが、それでも説得力があった。 「だから、消去法でうちになった」 『そんなの認めませんよ』 「そうは言っても、平野が望んだことだ」 『先輩が望めば何でもするんですか?』 「そうだ」 (この人はそうだった……!)  将之が理解できないほど、家永は知己至上主義だ。  心の中で将之は舌打ちをすると 『家永さんちで二人っきりになったら、キスどころの話じゃないでしょ?』  と続けた。 「それも平野の希望だ」 『はあああ? あなたバカじゃないんですか? そういう行為をすることで先輩の記憶は戻るんでしょ? 最終的には、先輩は僕のことを思い出すじゃないですか。あなたのことは……』  なかったことにされちゃいますよ。  こんな蜜月も何もかも。  そう言いかけた将之よりも先に家永が 「どうするんだろうな」  思ったよりも冷静な声を出していた。  割り切っているような諦めているような……それとも実は諦めきっていないような……電話の声だけでは判別がつかない。
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