★中位将之という人物 4

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(我ながら情緒不安定だ)  と思う中 (そういえば、俺、いつからどんなきっかけで家永と付き合うようになったんだろう?)  と思い始めた。  最初は半信半疑だった。 (だって、俺が男と付き合うなんて……ありえねえ)  高校時代にさんざん憂き目にしか遭わされていない知己は、そういう視線に過敏だった。  家永と会ったのは18歳の時。  知己の外見ではなく、ちゃんと中身を見てくれた。同じ専攻というのもあって話が合うし、なにより信頼できる奴だと思った。困ったことを相談したら、いつだって現実的な意見を正直に言ってくれる。その上、口は堅い。何でも話せた。気付いたらいつも一緒に居た。  そんな関係だった。  だから、30歳になった自分(知己)が男と付き合っているのなら……その相手は家永しかいないと思った。 (家永が言うんだから、間違いないよな)  家永は性欲薄いのか、大学時代に友人たちが集まって観たアダルトAVには目を背けていた(実際は、知己の横で観るのは居心地悪かっただけ)。  知己は、家永のことを根っから真面目というか研究者体質と思っていた。 (それなのに俺が強請ったらキスしてくれて、思い切ってもっと強請ったらその先までしてくれて……)  「病院だから後始末に困る」とやっぱり現実的な理由で途中でお預け食らわされたが、堅物だと思ってた家永があんなにしてくれるなんて。 (やっべ。もしかして俺、めちゃくちゃ愛されている……?)  さっきまで寂しかったくせに、思わず「ふふっ」と妙な笑いがこみ上げてきた。  一人の病室だ。  誰に聞かれるわけでもないが、なんとなく憚られて右手で口を押えた。 (退院したら家永んちに直行するわけだから、にも困らないよなぁ)  もう途中で止める言い訳なんかできないぞと、なぜか勝ち誇った気分で知己は思う。  家永は「途中で止めるもんか」と想像の中で言い返してきた。  すると、唇に当てていた自分の指が、なんだか家永に指を押し当てられているような感覚に陥った。 (家永……、やり始めたら割と強気でグイグイきてくれた……よな)  やたらと倒錯的な気分に駆られ、知己は自分の指を二本押し込むように口に含んだ。  緩く舌を押さえると (家永……)  それが家永の指のように思えた。  もしも本当に家永にそんなことされたら―――――。  まるで「お前になら、いいよ」と合意あるいは服従に似た意思を表すかのように、知己はその指をたどたどしく舐めていた。
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