★中位将之という人物 4

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 自分の指を家永の指と錯覚して舐めていると (俺、何やってんだ……)  頭の片隅には冷静な自分が居て、今の行為を滑稽に思っている。  だが、止まらなかった。 「いえ……な、が……」  小さく声が漏れた。  冷静な自分は 「明日まで待てないのか。さもしいぞ、俺」  と指摘するが、それを説得するように (仕方ないじゃないか。家永が悪いんだ。俺をほったらかすから……)  と言い訳をする。  毎回、家永とキスをしてはその先を願ってしまう体を持て余していた。 (きっと、俺、家永にいっぱいかまってもらってたんだろうな。だから、キスだけであんなに反応するようになって……それなのに、蛇の生殺しみたいに毎度毎度途中でやめられて……)  退院が待ち遠しい。  明日が待ち遠しい。  早く以前のように家永にいっぱいかまってもらいたい。  心も体も家永で満たされたい。  そんな気持ちから、知己の左手は病院服のズボンにのびていた。  ほんの少し力を加えるだけでウエストがゴム仕様のズボンはあっけなくずらされ、左手は吸い込まれるように下着に滑り込んだ。  想像で緩くきたしていたそれを、知己はおっかなびっくり掴んだ。  想像の中で家永の声が 「もうこんなになっている」  と揶揄う。 「こんなになるようにしたのは、お前だろ? ここまで来て、途中でとめんなよ」  精一杯の強がりを言い返すが、現実の知己には羞恥で涙が滲んでいた。 「んっ……」  左手が、想像の中で家永の手にすり替わっていた。  きゅっと強く握られて、知己はたまらず右手を口から引き抜いた。指に唾液が透明な糸になって伝っていたが、それも共に下着の中に突っ込む。 「……んぁ、ゃ……」  左手で支えたものの先端に宛がうとぬるりと滑った。  唾液の所為だけではない。  先端に滲んでいた液体に濡れた指先を沿うように合わせると 「ん……は……、ふ……っ」  短い呼吸の合間に、喘ぎ声が混じった。  もはや自分でしている感覚ではなく、閉じた知己の瞼の裏には知己を高めようといたずらに微笑む家永の姿しかなかった。  頭の片隅にいた冷静な自分がもはや何も言ってこないのに、知己は自分でしている後ろめたさがあって (家永が悪いんだ。俺をほったらかして。全部家永が悪いんだ。退院したら本当にしてもらうからな)  好き勝手に責任転嫁しながら、家永のことだけを思っていた。 「あ、いえな、が……家永……、……っ!」
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