★中位将之という人物 4

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「……平野……」  想像ではない家永の抑揚ない声が背後で聞こえた。 「……!?」 「お前……、俺の名前呼びながらそういうことするとか……めちゃくちゃ可愛いな」  後ろを振り向くと廊下からの光がスライド式ドアで狭まっていくのが見える。そのわずかな光源で、本物の家永が来たことを知り、知己は酷く慌てた。 「わぁ!? な、なんで、家永が!?」 「でも、部屋の鍵は閉めてから、しろ」  家永のもっともなツッコミは、更に知己を慌てさせた。 「いや、だって、夕食後の回診も終わったし、もう面会時間も過ぎちゃったからちょっと早いけど不貞寝しようかな……って思ってて。いや、本当はこんなことをするつもりなんてなかったし、ただなんとなく……」  言えば言うほど、情けない言い訳に聞こえる。 (世界で一番見られたくないヤツに見られた!)  と思うと、泣きそうにさえなる。  家永がいつも通りのたたずまいなのも、知己としては居心地悪い。  だが、家永が仏頂面を崩さないのは、にやけるのを我慢してのことだった。 「わー!? 家永、こっち来るな!」  本当はスキップでもしながら近付きたいのを我慢して、家永は知己のベッドを迂回した。知己は入口に背を向け、窓側に向かってベッドの端に座っている。病院から借りている寝巻の上衣はそのままだが、ズボンは腰までズレて下着が見えていた。  謎なのは、こんな状態を目撃されたというのに知己は、依然として下着に手を突っ込んだままの現在進行形スタイルだった。  それを不思議に思った家永が 「どうして下着から手を出さないんだ?」  と尋ねた。 「ばか、察しろ。今、出せねえんだよ。その……俺の手、恥ずかしくて見せられないんだ」  知己の語尾はどんどんか細く、小さくなっていく。 「見せられない?」 「……ドロドロで」 「ど……、ドロドロ……?」  多分、眼鏡の中の家永の目は点になっているのだろう。 「……まさか?! もう達した?」 「ぎゃー! 見るな、ばか!」  家永は容赦なく知己の下着をずらした。  そこには今まさに直前でお預け食らわされた知己のものが、両手の中に握られている。 「……お前の所為で、またもや寸止めだ……」  そんな所を暴かれて、怒っているのか恥じているのか真っ赤になった知己が恨みがましい視線で言う。
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