★中位将之という人物 4

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「それはすまなかった。責任取って、続きは俺がしてやろう」 「は?」  知己が眉を吊り上げる。 「何、馬鹿なこと言ってんだ。いいよ、もう。萎えた。どうせ病院の寝巻やシーツを汚しちゃまずいし。  ……ちょっとそこ、どいて。手を洗いに行くから」  喧々と矢継ぎ早に言いながら、知己は顎をしゃくって出入口扉脇に設置されている洗面台を示した。 「手は、そのままでいい」  真面目な顔してそう言うと家永は知己の両手の上から、自分の右手を重ねた。 「ばか、やめろ。俺は萎えたんだってば!」  こんなことの続きをされても、恥ずかしいだけだ。  知己は抗いたかったが、さっき知己が言った通りドロドロになった知己の液まみれの手で家永を掴むことはできない。両手もろとも、ぎゅうっと握り込まれた。  家永から握られて、欲しくなかったと言えば嘘になる。  だが、この状況はあまりにもみじめだ。 「や……、本当にやめろって……、んっ」  肩をすくめて嫌がる知己の顎を、家永は左手で捉えて半ば強引に上を向かせた。 「な……に?」  不意のことで家永の意図が分からない知己の唇に、家永は自分の唇を重ねた。 「ん、んぅ……!」 (忙しい中、家永が来てくれたのは嬉しいが……タイミングが悪過ぎるんだよ!)  あんな所を見られて恥ずかしいし、さっさとなかったことにしてしまいたいのに、こんな風に邪魔をする。 (それに、さっきからちっとも俺の言うことを聞いてくれない!)  そう思うと、嬉しいはずの家永のキスに素直に応じることなんてできない。  知己は頑なに唇を閉じ、ささやかな抵抗をした。 「……っ」  知己のささくれた気持ちを慰めるように、家永がゆっくりと舌で唇を巡る。  すると現金なもので、今度は頑固なこの行動がなんとも子供じみているように感じ、家永の優しいキスに  (……まあ、いつまでも意固地になってても仕方ないよな……)  と思い始めていた。  ようやく、知己が唇を開いて、家永のキスに応じる。  家永は、安心したように深く口づけた。
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