★中位将之という人物 4

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 静かになった病室で、かすかに知己の呼吸だけが聞こえていた。  極度の緊張から解き放たれて弛緩した知己の身体は、力なくベッドに放り出されている。  そこから、ゆっくりと家永が体を起こした。 「……」  それだけで、何も言わない。  果てた知己を見下ろし、手で口元を押さえている仕草は、口の中のものをどう処理すべきか考えているようにも見える。  激しい呼吸が治まってきた知己が 「……そこの洗面台で吐いて来いよ」  と少し気まずそうに言うと 「いや…………………………もう、飲みこんだから」  平然と家永が答えた。 「はあ?!」  思わず知己は目を剥いた。  さっき口元を覆っていた間に、飲み下してしまったようだ。  ほぼ反射で 「……最低……っ!」  と知己が応えた。  家永にではなく、家永の口の中なのに劣情を解き放ってしまった自分を罵る言葉だ。  だが、自分の行為に対してだと勘違いした家永は 「なぜだ? 服もシーツも汚さなかった上に、俺もお前も満足の最善の方法なのに」  解せぬとばかりに反論した。 「ま、満足……!?」  家永の言葉に、知己の顔が一気に赤らんだ。 「俺は……そりゃ満足だったけど、お前は……っ」  しどろもどろになる知己の言葉を遮って 「満足だった」  力強く断言されて、知己がまたもや一旦黙った。 「……でも、俺……。いつも、こんな……、は、恥ずかしいことされるのは嫌だって言っているだろ?」 「……いつもこんなことさせているのか?」 「え? 違うの?」  恋人ならば周知のはずと思っていた家永の、意外な反応に知己は思わず聞き返した。  妙な間が流れた。  視線を外していた家永が知己に戻した。 「……そろそろ立てるだろう? とりあえず、お前の方こそ手を洗いに行け。その姿は目のやり場に困る。もう一回するなら話は別だが」  なぜか軽く脅しをかけられて、知己は「ひぃっ」と起き上がった。
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