★中位将之という人物 4

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(やはり、記憶が戻ってきているのか……)  家永は、腰にだるさを感じながらもヨタヨタと洗面台に行って知己が手を洗い始めるのを眺めた。  洗い終わるタイミングで、家永もゆっくりとその背後に立つ。 「……家永?」 「やっと収まったからな」  意味深な家永の言葉に 「あ……」  思わず知己の視線が下がる。  スラックス越しでは、既に分からない程度に収まっているようだ。  知己の素直な視線に 「あからさまに確認するな」  家永が指摘すると 「ごめん」  さすがに不躾だったと知己が謝った。 「それに、この口だとお前がキスしてくれないだろう?」  と家永がわざと唇を寄せてきた。  知己は、家永がさっき何を口に含んだのかを改めて思い知り 「当たり前だ! しっかりゆすげ」  自分の手を拭いていたタオルをぐいと家永の顔に押し付けて、場所を交代し、やはりヨタヨタとベッドに戻っていった。 「毒じゃあるまいし」  うがいの合間に家永が言う。 「普通、そういうのは飲まないの。お前、AV観ないくせになんでそんなAVまがいのエロいことしちゃうんだよ」  ブツブツと知己が応戦する。 (平野の横でAVなんか見れるか)  と家永は思う。 「単なる蛋白質じゃないか」 「そんな風に言うな」 「ちょっと苦いプロテイン」 「だから、言うなってばー!」  タオルの次は、枕が飛んできた。  うがいを終えて改めて知己の元に枕を返しに行くと、知己はふてくされた態度を一変し、待ちかねたように家永を両手を広げて迎えて、抱きしめた。 「……退院したら、最後までするぞ」  と小さく決意を口にする。きっとここが病院でなければ、「おー!」と拳を突き上げていただろうと思われた。 「平野にしては、積極的だな」  家永の肩に頭を置いている知己に言うと 「お前にばっか我慢させて、悪い……。と、そういえば」  知己がふと気付いた。 「今日は来ない筈だったんじゃ……?」  尋ねる知己に、家永は自分の斜め掛けバックの中から「これ」と知己の携帯を取り出した。 「明日に控えた施設退所に時間を合わせて退院してもらおうと……お前の携帯持ってきたんだ」 「それ、開かないんじゃ?」 「スワイプしたら、暗証番号分からなくてでも電話には出られる」 「そうなんだ。ところでスワイプって?」 「そこからか……」  家永が知己の指を取って、スワイプを教える。 「マッチで火をつける要領だな」 「そこまで勢いは要らないが……まあ、そんな感じだな」
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