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「ここに……」
何気なく家永は知己の手を取ったままだったので、知己の指でディスプレイを指した。
「電話してきた相手の名前が表示される。だから、誰からかかってきたかが分かる。念のため、俺以外は出るなよ」
「もしかして……」
家永の言葉を聞いて、知己の顔色が青ざめた。
「門脇さんとか電話して来るのか?」
目覚めた時にキスされていただの、記憶取り戻すために殴られそうになっただの……すっかり恐怖の対象になっている門脇の存在に
「まあ、そんな所だな」
日頃の行いの悪さだなと家永は思った。
(むしろ、門脇さんとかの方が問題なんだが)
本当に懸念すべきは帰国した中位将之の存在だ。
将之が「非通知」で電話をかけてくるかもしれない。
そんな心配もあるが、今の状況を不安がっている知己がおいそれと家永以外の電話に出ることもないだろう。
(平野がいいなら、それでいいと思っていたが……)
帰国した将之のあまりの自分勝手な判断に腹が立った。
家永が帰った後も、家永の話を信じずに知己と話に行っている。
「……あのさ、家永……」
「なんだ?」
「そろそろ手を離してくれないか?」
うっかり、スワイプの動作を教えるために知己の手をとったまま考え込んでいた。
「すまん」
家永が手を離すと、すっかり恋する男子になった知己が「いや」とほんのり赤くなって、でもまんざらでもなさそうな表情を浮かべる。サイドボードから自分のバッグを取り出すと、さも明日の連絡が楽しみな様子で携帯を大切そうにしまった。
(20歳の頃の平野って、こんなに可愛かったのだろうか?)
お互い、親友としてしか見てなかったので、言ってみれば新鮮な知己の反応だ。
無言で知己の行動を見つめている家永の視線に、気付き
「何だよ?」
知己が照れ隠しに毒づいて見せた。
「不思議な感じだ」
正直に家永が言う。
「手を握るよりも、さっき、もっと恥ずかしいことしたが?」
「!」
みるみる真っ赤になる知己が、顔を見られまいとして、ガバリと家永を引き寄せて抱きついた。
「ううううう、うるさいな! そんなこといちいち言うから、お前は『デリカシーなし男』って言うんだ!」
家永の胸元で、モゴモゴと文句言う知己に
「この間からちょいちょい出てくる『デリカシーな塩』が分からないが……お前の悪意だけは伝わった」
そう言って家永は、言葉とは裏腹に愛おしそうに知己の頭と体を包むように抱きしめた。
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