★中位将之という人物 4

14/16
前へ
/778ページ
次へ
 廊下からの明かりで、家永の袖をひっぱるようにしがみついている知己。二人の姿が浮かび上がった。 「……小うるさくて、悪かったな」  そんな場面を見られても微動だにしない家永は、悪口に敏感に反応して眉間にしわを寄せていた。 「……っ!?」  病室で抱き合う二人を見止めて、将之の眉毛がぴくんと吊り上がった。  またもや不穏な空気に凍り付く空間を、知己の悲鳴が切り裂いた。 「ふぎゃー!」  抱っこされていた猫が驚いて飛び出すように、真っ赤になった知己は慌てて家永を突き飛ばした。そしてまたもや布団を頭からかぶって、とりあえず隠れた。 「また、亀になって……! そんなんで僕を誤魔化せると思ってんですか?!」 「嫌ー! やめろー! 何なんだ、あんたー!」  怒声を上げて将之は布団を剥がそうとするが、知己は布団の端を丸め込んで防御に徹している。 「……」  突然いなくなった知己の残像だけを抱いて、家永は所在なさげに腕を宙ぶらりんにさせていた。 (何だろう……なんかムカつく)  将之と知己の必死の布団攻防戦だが、なんだろう。  なぜか、二人がいちゃついているように見える。 (昨日、俺のいない間に何があった?)  知己の病室に来て、最初にそれを聞くのを失念していた。 (……というか、携帯渡す用事も、平野に訊きたいことも全部飛んだ。まさか平野が俺の名前呼びながら、あんなことしているなんて思わなかったから、なぁ)  二人を傍観する家永に、全身を布団で覆いつくした知己から 「家永! お前、俺にとやかく言ったくせに鍵をしてなかったのかー!?」  と非難の声が上がった。 「だって、お前があんなことしてたら飛ぶだろ?」  平然と受け答える家永の方に 「な?! って? 何をしてたんです?!」  将之が詰め寄った。 (ああああああ、なんでここに中位さんが……!? っていうか、また見られた! 家永にめそめそと抱きついているのを、よりにもよって中位さんに!)      まるで昨日の再現のようだ。  布団の中で知己は、羞恥で湧く頭の中でぐるんぐるんと昨日のことを思い出していた。 (ん? 昨日の再現? だったら、この後、家永は殴られ……!)  慌てて知己は 「家永っ! 危ない!」  布団から飛び出して叫んだ。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加