中位将之という人物 5

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「先輩、こっち」  中位将之は病院前の自販機でコーヒーを二本買うと、知己を病院の中庭の方に誘った。  芝生の上のベンチは建物の日陰になっている。家永から連絡来るまでの時間潰しにはもってこいだ。 「見つかったら、また怒られないか?」  知己が戸惑っていると 「ここは建物の外だし、騒がなきゃいいんでしょ? セーフですよ。もしも怖い看護師さんに見つかっても、お迎えが来るまでって言えば許してくれそうな気がするし。それに熱中症になったら、また病院に逆戻りです。それとも……先輩さえ良ければですが、僕のホテルに来ますか?」 「ホ、ホテ……?!」  なんともきわどい話になった。  昨日のことも、結局ほぼ全て知られることになった。 (あ。いや、慌てるな。中位さんは妻帯者だろ。そんなつもりはない。ただの親切だ)  揶揄われたと思った知己は 「冗談はやめてくれ。どっちにしても、家永に一服盛られそうだ」  熱中症になっても、殴り合うほど険悪な将之の部屋に行っても、家永に怒られそうだと思った。 「確かに、理数系で姑息なあの人ならやりそうですね」  どこまで冗談か分からない会話にもなった。  日陰のベンチに座ると、将之はさっき買ったボトルキャップコーヒーを「どうぞ」と知己に手渡した。  見ると、好きなコーヒーの銘柄に 「George(ゲオルグ)の【香るブラック】……」  偶然だろうが、好みのものをもらって知己は嬉しくなった。 「中位さんもこれが好きなのか?」 「好きというか……胃のことを考えたら、ミルク入りをお勧めしたいんですが、どうにも甘ったるくて飲めないと言うので」 「うん?」  一体誰の話をしているのか。主語がはっきりしない言い方に、知己は首を傾げた。 (でも……、好きなものが同じと言うだけで、どうしてこんなに親近感が湧くんだろうな)  知己は隣に座る男をじぃっと見た。  はじめこそ問答無用で家永を殴ったので (なんてヤツ!)  と思っていたのが、今はそうでもない。  あの日、頭痛をこじらせて吐いてしまったのに、疎まずに優しく介抱してくれた。 (なんで、こんなにいい人が家永をあんなに嫌うんだろ。むしろ毎度毎度家永と鉢合わせするなんて、気が合うとしか思えないのだが) 「なんですか?」  凝視されて、将之が尋ねた。
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