中位将之という人物 5

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 だが、外見にそぐわぬ、えげつない行動にはまったくもって理解ができない。 (家永を殴ったり嫌味言ったりするけど、気遣ってくれる優しい所もあるんだよな。……この人、全く分からん)  なんとも掴みどころない男だ。 (どうして本当は優しいこの人が、意地悪言ったり家永に殴りかかったりするんだろう?)  と考えると、意外な仮説が浮上した。 「……分かった。あんたは……!」  知己は眼を見開いて、思わず口に出してしまった。 「ようやく思い出してくれたんですね?」  将之が喜色を浮かべたが 「あんた、家永のことが好きなんだな?」 「は?!」  知己の一言で、気分は奈落まで叩き落された。 (この人は、大好きな家永が俺と付き合っているのが気に入らない。  ↓  だから仲良くしている所に踏み込んで、激怒。  ↓  しかもあの家永が、珍しくこの人を嫌っているみたいな塩対応。  ↓  思い余って、もう殴るしかない!) 「……みたいな」  知己が自分の考えに一人で納得している。  それどころか「どうだ? 合っているだろう」みたいな顔になって、将之の返事を待っている。 「……今、自分の考えたことを説明するのが面倒になって端折ったでしょ?」  将之が呆れて言った。 「えっ?」  的確に言い当てられて、知己の視線が泳いだ。 「人の顔見てなんか考えているなーと思ったら……。以前も似たようなこと言ってましたよ」 「以前?」 「……門脇君が僕を好きだと勘違いしてました」  知己の頭痛案件かと思われて、将之は慎重になった。 「あの……、頭痛は大丈夫ですか?」 「んー。今の所、平気……かな」  なんだかざわざわするような感覚はあるが。  知己はこの感覚に覚えがあるような気がしたが、はっきりと掴めなかった。  確かにそこにあるのに、それに薄いヴェールが幾重にもかかったかのような正体が掴めない感覚だった。  もどかしい感覚に戸惑うものの、考えても仕方ない。 「中位さん」  気を取り直して、知己は隣の男に話しかけた。 「……家永のことは諦めてくれ」 「だから、なんでそうなるんです?」 「あんた、そんだけかっこいいんだから、門脇さんでも誰でも他にいい人が見つかるだろう? だから、家永は諦めてくれ」 「はあ?!」  将之が、にわかに気色ばんだ。 「あなたは、他の人でいいんですか? その人じゃなきゃダメだから、こんなややこしいことになっているんでしょ?」
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