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だが、外見にそぐわぬ、えげつない行動にはまったくもって理解ができない。
(家永を殴ったり嫌味言ったりするけど、気遣ってくれる優しい所もあるんだよな。……この人、全く分からん)
なんとも掴みどころない男だ。
(どうして本当は優しいこの人が、意地悪言ったり家永に殴りかかったりするんだろう?)
と考えると、意外な仮説が浮上した。
「……分かった。あんたは……!」
知己は眼を見開いて、思わず口に出してしまった。
「ようやく思い出してくれたんですね?」
将之が喜色を浮かべたが
「あんた、家永のことが好きなんだな?」
「は?!」
知己の一言で、気分は奈落まで叩き落された。
(この人は、大好きな家永が俺と付き合っているのが気に入らない。
↓
だから仲良くしている所に踏み込んで、激怒。
↓
しかもあの家永が、珍しくこの人を嫌っているみたいな塩対応。
↓
思い余って、もう殴るしかない!)
「……みたいな」
知己が自分の考えに一人で納得している。
それどころか「どうだ? 合っているだろう」みたいな顔になって、将之の返事を待っている。
「……今、自分の考えたことを説明するのが面倒になって端折ったでしょ?」
将之が呆れて言った。
「えっ?」
的確に言い当てられて、知己の視線が泳いだ。
「人の顔見てなんか考えているなーと思ったら……。以前も似たようなこと言ってましたよ」
「以前?」
「……門脇君が僕を好きだと勘違いしてました」
知己の頭痛案件かと思われて、将之は慎重になった。
「あの……、頭痛は大丈夫ですか?」
「んー。今の所、平気……かな」
なんだかざわざわするような感覚はあるが。
知己はこの感覚に覚えがあるような気がしたが、はっきりと掴めなかった。
確かにそこにあるのに、それに薄いヴェールが幾重にもかかったかのような正体が掴めない感覚だった。
もどかしい感覚に戸惑うものの、考えても仕方ない。
「中位さん」
気を取り直して、知己は隣の男に話しかけた。
「……家永のことは諦めてくれ」
「だから、なんでそうなるんです?」
「あんた、そんだけかっこいいんだから、門脇さんでも誰でも他にいい人が見つかるだろう? だから、家永は諦めてくれ」
「はあ?!」
将之が、にわかに気色ばんだ。
「あなたは、他の人でいいんですか? その人じゃなきゃダメだから、こんなややこしいことになっているんでしょ?」
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