中位将之という人物 5

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「あっ……」  失言だと、知己は思った。 「ごめん。そうだよな。その人じゃなきゃダメだから、こんな気持ちになっているのに……『諦めてくれ』だなんて言って、ごめん」 (……俺らしくない)  なぜ、あんなことを言ってしまったのだろうと悔いる。 (この人(中位さん)が家永のことを好きなんだと思うと、深く考えずに言わずにはいられなった)  知己の中に、辛いとも悲しいともどこか違う感情があった。 (なんだか……妙に胸が痛い)  動揺を悟られまいと美しく手入れされた庭の芝に視線を移した。  にわかに気色ばんだ将之に (俺、軽蔑されただろうか……)  と思う。 「男とか女とかそんなの関係なく、【家永】だから好きになったと分かってたはずなのに……それなのに焦って変なこと言ってしまった。中位さんが相手だと勝てる気がしなくて……。我ながら、卑屈だった」  知己にしては、やたらと喋る。  どこか後付けの理由を見つけては、もっともらしく説明しているようにも思えた。  そして、最後は自分に言い聞かせるように 「でも、俺……本当に家永が好きなんだ」  と言った。  間違いのない感情のはずなのに、言った途端、なぜこんなにも不安になるのだろう。  グラグラとした危うげな足場に、かろうじてバランスを取って立っているような気分だ。  少しでも気を抜くと、落ちてしまいそうな感覚。  頭の中には依然白いヴェールがかかったまま。はっきりしなくて、気持ちが悪い。  知己は誰かに助けてほしいと思った。  心細げに青々とした芝を見ていると 『庭の手入れは大変だ。ミントでも植えとけ』  と家永が言って種を撒いてたのを思い出していた。 (家永……早く迎えに来てくれ)  この不安な思いがどこから来るのか分からない。  不安で不安でたまらずに、なんだか縋るような思いで庭の一点を見つめていたので、隣に座っている男が今、どんな顔をしているのか知己には分からなかった。
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