中位将之という人物 5

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「……それが本心ですね?」  念を押すかのように確認され、知己は 「もちろん本心だ」  反射で答えていた。  答えた瞬間に、頭の片隅に (違う)  と感覚があったが、知己はこの感覚を (いや、違わない。それだけは確実なはずだ)  と即座に否定した。 (俺は家永が好きだから、男でも関係ないと思った。付き合いたいと思ったし、一緒に住みたいと思ったんだ。家永と、朝起きてすぐに会いたいし、夜、眠る直前まで一緒に居たいと思って……それがすごく嬉しくて)  また自分自身を納得させようと理由が次々と浮かんだ。  だけど、そうやって数多くの理由をこじつけてまで納得させようとしている自分に違和感も感じた。 「ふふ……道理で」  隣から、こらえきれない笑いが漏れた。 (え? 笑ってる? なぜ?)  自嘲にも聞こえるが、知己を嗤っているようにも聞こえる。  誰の、何に対して笑っているのか。  将之から感じていた優しい雰囲気が一変し、なにやら不穏な空気を感じた。 「え? 何?」  心もとなく知己が聞く。 「キスすると記憶が戻るって話」  ようやく見れた将之の顔は、確かに笑っているのに口角だけを上げているような作ったような笑顔だった。 「あ、それ……」  知己は思わず言葉に詰まる。 「……家永、あんたにそんなことまで喋ってたのか」 (この人(中位さん)に、そんなこと知られていたなんて……)  知己は恥ずかしくていたたまれないくなって、またもや芝生の方に視線を泳がせた。 「昨日はそれ以上のことをしてたみたいですが? 記憶は戻りましたか?」  そうでなくてもいたたまれないのに、追い打ちをかけるような質問がきた。 「う……ん……」  答えたくなどなかったが、黙っているのは更に居心地悪かった。 「なんかよくは分からない。色々と曖昧で。思い出している気はするけど、俺自身はあんまり実感なくって」  もやもやの白いヴェールはかかったまま。  どう答えたら正答なのかが分からない。  知己は迷いながら、聞かれたことに正直に答えた。 「結局、そういうことですよね。  何の根拠もない、そんな気がするだけのいい加減な理由。家永さんにいやらしいことしてもらいたいが為の、都合いいあなたの嘘」 「……ぇ? 嘘?」  知己が小さく呟いた言葉を 「なかなかに狡猾でいらっしゃる」  と将之がばっさり切り捨てた。
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