中位将之という人物 5

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「本当に……もう、やめてくれ。俺の頭の中を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜるな」  頭痛のようだが、いつもと少し違う。  頭の中にマグマを投入されたような、うねるような感覚があって、ぐらりと体が揺れるような平衡感覚がなくなっていく気がした。世界が歪むような、おかしくなりそうな感覚だった。  知己が本音を吐き出しても、将之は腕を離さない。 「頭の中?」  身長差もあったが、知己が肩をすくめて怯えるように座っているのもあって、将之は上から冷ややかに知己を見下ろしていた。 「変だな。かきまぜたのは頭の中じゃない」  そして、再び顔を近づける。 「あなたの……身体の中ですよ」 「え……?」  ドクンと心臓が打つ。 「な……? どう……いう、意味……?」  間近で将之の顔を見つめる。  将之に迷いはない。  だから、卑怯でゲスな発言が多いこの男の言葉が、でまかせとは思えなかった。   (まさか……いや、そんなはずは……)  将之の言う意味が分からない訳ではない。 (俺は、この人と……?)  そう思うと、かっと体が熱くなるのを感じた。  よく分からない激流のような感情が白いヴェールの下で暴れている。それが何か思い出せそうな気もしたが、やはり思い出せなかった。  もどかしいと知己は思った。 「あれ? 意外だな、そのおぼこい反応。……つまり、家永さんとは最後までシてないってこと?」  続く発言に 「……っ!? 俺の反応を見るために……?」  家永との関係を探るために、知己の気持ちも考えずに無遠慮に投じられた言葉だと思われた。 (酷い! 俺の気も知らないで! 酷い、酷い、酷い……!)  沸点に達した知己の頭の中には、それしかなかった。  早くこの姑息な男から離れなければと、知己は掴まれた腕を思い切り振った。 「……んぅ……っ!」  それなのに将之は、知己の両腕をとって胸の辺りで交差させ、自分の身体を押し付けてきた。  ベンチの背に知己の身体を自分の身体ごと押し付けて固定する。腕を取られているので、当然、どこにも逃げ出せやしないのに完全に動きを封じた上で、近かった顔をもっと近づけてきた。  一瞬の迷いの後、唇が重なった。 「……ぅ……」  将之の体を押し付けられて、自分の体との間に封じられた両腕が胸に当たって痛い。  知己は苦し気に呻いた。
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