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ゲーム 開始 7
今日は週に一度のチャンス、午後は章達のクラスであり知己の担任する2-3の授業がある。
朝のHRの時に、知己は確認した。
(将之が言うことが合っているのなら、今日はゲームが仕掛けられる日だな)
と。
午後、理科室での授業が始まった。
「この間『みりん』で行った物質の状態変化の実験を覚えているな。溶液……この場合『みりん』だが、みりんを熱して、出来た蒸気を冷やし、液体として回収する。この方法を何というか?」
と知己は質問した。
難しかったのか、覚えてなかったのか、答える気がないのか誰も挙手しない。
仕方なく
「須々木、どうだ?」
特に他意はなく俊也に振ってみたところ、ガシャーッとけたたましい音が理科室に響いた。その後ほぼ全員が、たて続けに筆箱をガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャーっと落としている。しかもニヤニヤとした好戦的な笑みを浮かべながら。
知己は
(あー、やだな。今夜、こいつらの笑顔が夢に出てきそう)
とうんざり思う。
今日の一発目の嫌がらせは、筆箱を一斉に落とすところから幕を開けた。
悲しい習性で、指名した後に知己はぐるりと全体を見渡す癖が身に付いた。
相変わらず吹山章だけは、我関せず。窓際の席で、のんきに理科室の奥に隣接する裏山を眺めている。
外と理科室の空気は、壁一枚隔てて真逆だった。初夏、すっかり鳴き方が巧くなった鶯が「ホーホケキョ」とのどかな声を披露している。こちらは生徒たちの冷めた視線に晒されて、知己は風邪を引きそうだ。
(首謀者は、もう分かったけど……)
最初に筆箱を落とした生徒は梶原。
だけど、それでは意味がない。
首謀者を知己が次の指名で当てれば、首謀者据替が行われるだけだ。このクラスに首謀者を任命する「主催者」自身を当てなければ、このゲームは終わらない。
知己は出席簿に目を落とした。
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