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(俺、家永のことが好きだったんじゃなかったのかよ?)
家永のことは、もちろん好きだ。
絶対に大好きだ。
あんなに信頼できる奴はいない。それは何者にも代われない。
人見知りで多くの友達と関わることできない知己だったが、家永だけは違った。
きっと何年経っても友達でいられると思っていた。
ずっと好きでいられる。
それを拗らせて恋人関係になったと知った時には驚いたが、そういう関係になれるのは家永をおいて他に居ないと思った。
(でないと、あんなことデキっこない)
昨夜のことを思い出す。
来ない家永のことを思い、我慢できずに一人で始めた。
結局家永に見つかって、その続きをしてもらったわけだが、好きでないとあんな風にすべてを委ねられるわけがない。家永に甘えた、触れてもらえている幸福感に酔っていた。
でも、何か違う。
将之に対する気持ちと家永に対する気持ち。
「う……」
もやもやする気持ちの中、また鈍重な頭痛が襲ってきた。
(あと少し。もうちょっとで思い出せそうなのに……)
何かきっかけがあったら、思い出せそうな気がする。
大切な何かを忘れている。
それを取り戻したくて、じわじわとやってくる頭痛に怯まずに、知己は考えを巡らせた。
(まだ何かあった筈だ……。何だっけ。確か、割と最近に何か引っかかることが……)
これまであったことを必死に思い出す。
緊張でドクンドクンと大きく脈打つ拍動に合わせて頭は痛むが、それ以上に思い出したい気持ちが強い。
「あ」
と知己は声を上げた。
(そうだ。昨日、家永にシてもらった後だ。家永が言ってた。『いつもこんなことさせているのか?』って)
あの時に感じた違和感。
引っかかっているのは、それだ。
(あれは一体どういう意味だ? まるで家永以外とも、ああいうことをシているような言い方……家永は、なんであんなこと言ったんだ?)
恐ろしい想像が浮かぶ。
(10年後の俺は、一体、誰と何をしてたんだ?)
複数の男性をとっかえひっかえ愉しむ自分を想像した。
「ひぃーっ!」
なんて恐ろしい。
(いやいやいやいや、無理無理無理無理……。あんな恥ずかしいこと、家永一人とでも恥ずかしいのに、複数人だなんて、とても無理無理無理……。誰とでもあんなことできる訳がない)
思わず力が入り、握っていたコーヒー缶がベコッと音を立てた。
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