中位将之という人物 6

2/6
前へ
/778ページ
次へ
(俺、家永のことが好きだったんじゃなかったのかよ?)  家永のことは、もちろん好きだ。  絶対に大好きだ。  あんなに信頼できる奴はいない。それは何者にも代われない。  人見知りで多くの友達と関わることできない知己だったが、家永だけは違った。  きっと何年経っても友達でいられると思っていた。  ずっと好きでいられる。  それを拗らせて恋人関係になったと知った時には驚いたが、そういう関係になれるのは家永をおいて他に居ないと思った。 (でないと、あんなことデキっこない)  昨夜のことを思い出す。  来ない家永のことを思い、我慢できずに一人で始めた。  結局家永に見つかって、その続きをしてもらったわけだが、好きでないとあんな風にすべてを委ねられるわけがない。家永に甘えた、触れてもらえている幸福感に酔っていた。  でも、何か違う。  将之に対する気持ちと家永に対する気持ち。 「う……」  もやもやする気持ちの中、また鈍重な頭痛が襲ってきた。 (あと少し。もうちょっとで思い出せそうなのに……)  何かきっかけがあったら、思い出せそうな気がする。  大切な何かを忘れている。  それを取り戻したくて、じわじわとやってくる頭痛に怯まずに、知己は考えを巡らせた。 (まだ何かあった筈だ……。何だっけ。確か、割と最近に何か引っかかることが……)  これまであったことを必死に思い出す。  緊張でドクンドクンと大きく脈打つ拍動に合わせて頭は痛むが、それ以上に思い出したい気持ちが強い。 「あ」  と知己は声を上げた。 (そうだ。昨日、家永にシてもらった後だ。家永が言ってた。『いつもこんなことさせているのか?』って)  あの時に感じた違和感。  引っかかっているのは、それだ。 (あれは一体どういう意味だ? まるで家永以外とも、ああいうことをシているような言い方……家永は、なんであんなこと言ったんだ?)  恐ろしい想像が浮かぶ。 (10年後の俺は、一体、誰と何をしてたんだ?)  複数の男性をとっかえひっかえ愉しむ自分を想像した。 「ひぃーっ!」  なんて恐ろしい。 (いやいやいやいや、無理無理無理無理……。あんな恥ずかしいこと、家永一人とでも恥ずかしいのに、複数人だなんて、とても無理無理無理……。誰とでもあんなことできる訳がない)  思わず力が入り、握っていたコーヒー缶がベコッと音を立てた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加