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まるで抜け殻になったように「通話終了」の文字を家永は見つめた。
「何だ? 知己先生、一緒に帰らねえって言ってきたのか?」
電話が終わっても微動だにしない家永を門脇が現実に引き戻した。コードレス掃除機の柄に両手と顎を乗せて、かなり不満そうだ。
「悪いのは………………………君だ」
ぼそりと力なく呟く家永に、門脇は「え? 何? 何の話?」と聞いたが、家永から返事はない。
「記憶ないくせに一人で帰れるのか?」
「帰れるだろ? 子供じゃない」
「でもさ、心配じゃねえ?」
おもむろに門脇は自分の携帯を取り出した。
「よせ。何をする気だ」
「一緒に帰ろうぜって言うだけ」
と、手早く暗証番号を入力する。
「ふざけるな。やめろ」
「別にいいじゃん。乱暴なことはしないって。俺、先生と一緒に帰りたいんだよ。純な男心を分かってほしいな。何のために二日間もおとなしく実験ばっかしてたと思ってんだよ」
途中までは一緒だが、家永、菊池と順に別れる。最後まで一緒に居られるのは門脇である。
それを楽しみにしていた門脇は、まさにこの瞬間にも電話をかけそうだ。
「やめろってば!」
家永が門脇の携帯を取り上げようと掴みかかった。
理性の塊だと思っていた家永のまさかの行動に
「うわぁ!」
不意を突かれて、門脇は掃除機ごと後ろに倒れた。
たまたま倒れた方向が良かった。
仮眠用のソファの上だ。
「いてて、何すんだよ? 先生ー!」
抗議に叫ぶ門脇の上で、家永が携帯取り上げようとその腕を掴んだ。
まさにその時、実験室の扉がバンと勢いよく開いた。
「菊池二等兵ー! 無事、食堂清掃の任務を終えて帰還しましたぁ!」
敬礼しながら言う菊池の目に入ったのは、ソファの上で組み敷かれた門脇と彼を押さえる家永の姿。
「ひぃ!」
と菊池はたちまち凍り付いた。
「ちょ、まさか二人がそんな仲とは……!」
「「はあ?!」」
声を揃えて一度菊池を見つめ、その後にお互い見つめ合う門脇と家永のシンクロっぷりに、菊池はますます
「お、お邪魔しましたー!」
と慌てふためき
「俺のことは気にせずに、続きをどうぞー!」
ドアを荒々しく閉めて出て行った。
すかさずドアの内側で
「続きなんてねえ!」
「勘違いするな、菊池君!」
門脇と家永があらん限りの声で叫んだが、それが聞こえないくらい動揺した菊池は
(ど、どうしよう。御前崎ちゃんの心配してた通りになってたよ……)
震える指で、御前崎美羽の親友・近藤大奈にLIN○を送るのであった。
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