中位将之という人物 7

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「あの時、俺、すまないって思ったし、同時にあんたが俺の傍から居なくなると思うと、めちゃくちゃ哀しいって思った」 「ふうん……」  将之が少し考えて 「その悲しさ、家永さんに埋めてもらうといいんじゃないですか?」  と断ち切るような言い方をする。  それを聞いて、知己は目を伏せた。 「……あんた、意地悪だな」  ぼそりと言う知己に、ふと将之が思い出した。 「それ……あなたの甥っ子さんに言われましたね(※)」 「甥っ子……?」 「あれ? 溺愛の甥っ子さんはあなたが二十歳の時にはまだ生まれてないんでしたっけ?」 「俺の溺愛の甥っ子に、『意地悪』って言われているんだ」 「うーん……よく考えたら、あなたの同僚にも言われた気がします」  腕を組んで考える将之は、さも心外だと言わんばかりだ。 (……この人の意地悪は、筋金入りなんだなぁ)  どうもこの男は、ありとあらゆる知己の知り合いから「意地悪」認定されているらしい。 (そんなに俺の知り合いに疎まれて……でも、そんだけ俺の傍に居た人なんだ)  思わず知己は嬉しくなって頬が緩んだが、 (あ、いや。嬉しくなっている場合じゃない)  と気を取り直した。 「俺、もう家永に頼るわけにいかないんだ」  伏せた顔を上げて、将之に向かって言う。 「どうして?」  意外そうな将之に、答えるのは勇気が言った。 (拒否されるかもしれない)  わずか2時間前の病院ベンチでの会話を考えたら、もう無理かもしれない。 (でも今ちゃんと言わないと、俺は……多分、一生後悔する)  一呼吸おいて 「……俺……あんたのことが……好き、なんだ」  と絞り出すように伝えた。 「え?」  思ってもみなかった言葉に将之は、珍しく慌てた。 「だって、(想像でしかないけど)あんなことまでシてもらっといて、今更、家永さんを裏切りますか? それは酷いんじゃないですか、先輩」 (……って、僕は何を言ってるんだ?)  20歳の知己がいまだロクに記憶が戻ってないのに、こうして将之を追いかけて来てくれたのは嬉しいが、そんなに簡単に心変わりしたのは素直に喜べない。  表裏一体の感情に、将之も戸惑った。 (駄目だ、僕がもっとちゃんと話さないと。こんなこと言ってないで) (※)知己の甥が将之を「意地悪」呼びの話は、こちら↓ https://estar.jp/novels/25333614/viewer?page=106
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