中位将之という人物 7

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「……ぁ」  知己が小さく声を上げ、戸惑いの表情を浮かべた。 「何です?」  知己の様子をつぶさに見ていた将之が鋭く察知して尋ねると、知己は更に困った顔をして赤くなって俯いた。 「あの……、それ……、なんか家永も言ってたなって思い出して……。 『こんなことをさせてたのか』って」  これ以上将之に嫌われたくない思いからだろう。  黙秘権は使わずに、恥ずかしさでいっぱいいっぱいになりつつも、消え入りそうな儚い声で知己は必死で説明した。 (本当に中身20歳なんだな……)  と将之が思った。 (確かにこんな初々しい先輩に『好きだ』とか『恋人になってくれ』と言われたらヘドバン状態で頷いちゃうよな……)  あの時の家永の状況が分からないでもない気がした。  が、ふと過った甘い考えを全否定し (いーや! 家永さんの気持ちなんて分からない。そこは絶対にダメでしょ。心を鬼にして『俺じゃない』って真実を言わなきゃ……!)  絶対にできそうにないことばかり考えていた。 「……へえ。あの人がそんなことを」  家永のことは絶対に認めたくない。 「あの人、上から目線で何もかも知ってるぞーって感じのヤな人だと思ってましたが、意外に正直者なんですね」  精一杯譲歩して、将之が感想を口にした。 「う……。俺のことは何と言われてもいいけど……家永の悪口は言わないでくれ」 「あ、そこはやっぱり譲れないんだ」  将之は (先輩らしいな)  と笑った。  うっかり家永を庇ってしまい、知己はまた将之の機嫌を損ねたかと一瞬ひやりとした。が、先ほどベンチで見た拒絶した笑顔ではなかった。  そこで知己は、もう一歩だけ踏み出してみた。 「その相手は……あんただよな?」  知己の疑問形に、将之のこめかみが「まだ分かってないんだ」とピクリと動いた。 「そう言いましたね。『かき回したのは、あなたの身体の中だ』って」 「う……ぅぁ」  自分と将之のその姿を想像して、知己が真っ赤になった。 (……なんだ、これ。やばいな)  知己の反応が、いちいち可愛い。 (家永さんばかりか、セクハラ親父の気持ちさえも分かってしまいそうだ)  将之は、新たな扉を開きかけた自分を戒めた。
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