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指を滑らせ、つと、ある生徒の名前で止めた。
(多分、こいつが「主催者」なんだろうな……)
その名前を言えば良かった。
(これで、終わり。やっと、終われる)
そう思うと、嬉しい。
嬉しい反面、知己はこれまで延々続けられた嫌な思い出がフツフツと湧いてきた。
それまで受けた数々の授業拒否。
職員室での関わりたくなさげな同僚の視線。
教師がつけっぱなしのラジオのようにひたすらボソボソと喋っている異様な授業風景。
そして、それに耐えられずに異動希望を出した顔も知らぬ教師が二人。
(なんで、俺、強制的にこんなことさせられているんだよ?)
思い出していたら、
「こんなことして楽しいか?」
と心の声が口をついて出ていた。
教室が、ざわついた。
さっきまで窓の外を見ていた章も、瞬き数回、驚いた顔で知己を見つめている。
知己はこれまでずっと我慢していた堰が切れて、溢れ出る水のように言葉が止まらくなっていた。
「こんなことしていて、楽しいかと訊いている」
二度目は自分でも驚くほどに大きな声になっていた。
「コソコソコソコソこんなゲームなんか仕掛けやがって! 言いたいことあるなら正々堂々、直接言えーっ!」
腹の底から声が出ていた。
(あ。なんかスッキリした……)
自分でも思いがけない行動だったが、叫んだ後には気持ちは異常に軽くなっていた。
一気に叫んだ後に、ほっと一息つく。
すると、信じられないものを見るように知己を見つめる章と目が合い
(しまった……、つい、腹が立って……)
現実に引き戻された。
同時に、後悔が押し寄せる。
─────みんな、ちゃんとルールは守っているよ。ルール破りは嫌いでね、そういうの厳しいんだよ。
章の顔を見ていたら、数日前に言っていた言葉が頭の中によみがえってきた。
(やば。もしかして、これって章が言ってた「ルール破り」になるのか?)
せっかくそれらしき生徒が分かったのに、名前を言う前にこれまでのことを思い出したら、思わず叫んでしまっていた。
(俺、もしかして、取り返しのつかないことをヤっちまったのかー……?)
こめかみを冷汗が流れる。
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