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「……中位さんの言う事、よく、分からない」
ごちゃごちゃ言われて、結局誤魔化されているのか拒絶されているのかと悲しく思っていると
「そう言わないでください。僕も正直ちょっと混乱中なんです」
と将之は言った。
(混乱中?)
だが、そんなことが一切、顔にも態度にも出ていない。だから、知己には1mmも伝わらない。
(この人って……意地悪な上に偏屈なのか)
まだ会って3日目の目の前の人物がよく分からない。
(なんでこの人を好きになったんだろう?)
と知己が考えていると
「あ。なんですか、その顔。僕のこと『変なヤツ』と思ってるんでしょ?」
「……え、あ……うん。(しかも目敏い)」
将之の方は、的確に知己の考えを見抜いてきた。
「僕だって素直に何でも言えれば苦労はないですよ。でも家永さんが極太の釘をさしちゃってくれたもんだから」
(そして、人の所為にするか)
「あなたが頭痛起こさないように考えながら話すの、結構、大変なんですからね」
不意にポロリと将之の本音がこぼれた。
(あれ? ……そうなんだ)
将之自身もキョトン顔だ。
(自覚してなかったけど、僕が素直に言えないのには理由があったんだなぁ)
と本人も驚いている前で、知己も驚いていた。
(……もしかして、俺の体調を一番に考えてくれている?)
そう思うと、
(そっか。だから好きになったんだ)
さっきの疑問の答えが見つかった気がした。
「俺、大丈夫だから」
「壮絶に吐いたくせに」
「でも、大丈夫だから」
「その言い方だと、絶対に『大丈夫』の根拠はなさそうですね。念のためトイレの場所を教えておきますね、あそこです」
「大丈夫だって」
どうにも意地悪で偏屈な言葉がやまない。
家永が釘を刺した所為だけではなさそうだ。
(……というか、責任転嫁だよな。家永の所為にしているだけだ)
と知己は思った。
だが、不思議と親友と慕う友人の所為にされても嫌な気はしない。
むしろ、そんなことしか言えない将之を愛しく思っている。
「だって、あんたがまた背中さすってくれるだろ?」
「……そう来ましたか」
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