中位将之という人物 7

7/8
前へ
/778ページ
次へ
(以前の俺は普通にしてたって言っているんだし)  もちろん、将之の嘘である。  よっぽど将之が強請らないと、知己は膝の上に乗りはしない。  だが、今の知己にそれを嘘と見破る方法はない。 「恥ずかしいからしたくない」などと言って、やっと機嫌治った将之に嫌われたくはないのだ。 (ここで恥ずかしがる方が変だよな。  えーい、行ってしまえ!) 「い、行くぞ!」  思わず力いっぱい宣言した知己に、将之が 「どうぞ」  堪えられずに、つい微笑みがこぼれる。 「うりゃー!」  照れ隠しなのか、何か言わないとできないのか……とにかく気合の入ったかけ声と共に知己は目を瞑り、将之と向かい合わせになるようにして膝の上にどんと飛び乗った。  将之を跨いで、ベッドの上に足を投げ出し、いわゆるウサギ座りになった。 「……」  将之の笑顔が苦笑に変わった気がした。 「な、なんだよ?」 「いや、なかなかに積極的で。驚きました」 「は?」 「思ってたのと違ってたので」 「え? 違ってたのか? こうじゃなかったのか?」 (ひぃー! 思い切って膝の上に乗ったのに、なんか間違えてたのか!?)  腕を回せば抱きしめられるほど近い距離にいる将之に、ドキドキしながら知己が尋ねると 「……対面座位ですか」  ぼそりと将之が言った。 「た……?!」  どこかで聞いた言葉だ。 「僕は背面座位のつもりで話をしてたんですが」 「は……?! あ! はいめんって……そういう意味……!」  どうやら体の向きが違ったらしい。 (ってか、この人……いちいちセックスの体位じゃないと説明できないのか……!?)  どこかで聞いた言葉の意味をようやく思い出し、知己は真っ赤な顔で滝のような汗までかいた。   「あの……、向きが違うんだったらやり直そうか……?」 「いえ、このままで。キスするにはちょうどいい向きです。100点満点ですよ」  と、将之が嬉しそうに眼を細めてから顔を傾けた。  突然のことで知己はほんの少しだけためらったが、逃げる場所も逃げる気もなかった。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加