★中位将之という人物 8

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 はあはあと荒い呼吸をなんとか整えようと思ったが、先ほどの余韻が大きく、なかなか整わない。  知己は目を瞑り、額をバスタブの縁につけて顔を伏せていた。  解き放った後の虚脱感で膝が崩れそうになるのが、かろうじて倒れないのは、将之がしっかりと腰を掴んでいるからだ。 (……絶対に、恥ずかしいことになると思って我慢してたのに……)  目を開けられないのは、水面を恐ろしくて見れないのもある。 「あー、これは……。  ふふふ。お湯が白く濁っちゃいましたね。一旦湯を抜いて、張り直しましょうー」  将之の余計な実況中継が、知己の神経を逆撫でする。 「ふふふ、可愛いなぁ。僕の指でイっちゃいましたか。お湯がこんなになっちゃうのも、仕方ないですよねー」  同意を求めているようだが、そんなことにとても返事なんかできない。  しかも背後から聞こえる将之の声が妙に嬉しそうなのが、恥ずかしいよりも腹立たしい。 「でもー、またお湯をためても先輩が出しちゃうかもしれないですし、ね。ふふふ。じゃあ、先輩が遠慮なくいーっぱい出せるように、今はお湯を溜めない方がいいかなぁ。うふふふふ」  将之は愉快そうに、知己の背に抱きついた。 「う……」  直に触れ合う背中からの温かさに、ときめかないわけがない。  だが、あまりの仕打ちだ。 (俺……初めてなのに)  これから先もあんな感じで、強制的に痴態を晒される。  容易に想像できて、無性に怒りが込み上げてきた。  さっきまでの虚脱感のすべてが回復したわけではないが、知己はわずかに戻った体力で腰を捻って 「初めてなのに、酷い!」  と肘をくり出した。  だがいつもよりも勢いを欠いた肘を避けるのは、たやすい。  知己の腰から手を離さずに上体だけを起こして将之は避けた。 「……ぁ……!」  腰を捻った知己と背後の将之が改めて目が合った。途端、腰を抱えられた姿を目のあたりにして、改めて真っ赤になるのは知己の方だった。 (くっそ。なんか俺ばっか……。ずるい!)  にやりと悪い笑顔浮かべて将之は 「初めてじゃないですよ。もう、何回と言わず……えーっと、三桁はしてますね。もうすぐ4桁かも」  平然と言い放つ。 「でも、俺は初めてだ!」
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