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はあはあと荒い呼吸をなんとか整えようと思ったが、先ほどの余韻が大きく、なかなか整わない。
知己は目を瞑り、額をバスタブの縁につけて顔を伏せていた。
解き放った後の虚脱感で膝が崩れそうになるのが、かろうじて倒れないのは、将之がしっかりと腰を掴んでいるからだ。
(……絶対に、恥ずかしいことになると思って我慢してたのに……)
目を開けられないのは、水面を恐ろしくて見れないのもある。
「あー、これは……。
ふふふ。お湯が白く濁っちゃいましたね。一旦湯を抜いて、張り直しましょうー」
将之の余計な実況中継が、知己の神経を逆撫でする。
「ふふふ、可愛いなぁ。僕の指でイっちゃいましたか。お湯がこんなになっちゃうのも、仕方ないですよねー」
同意を求めているようだが、そんなことにとても返事なんかできない。
しかも背後から聞こえる将之の声が妙に嬉しそうなのが、恥ずかしいよりも腹立たしい。
「でもー、またお湯をためても先輩が出しちゃうかもしれないですし、ね。ふふふ。じゃあ、先輩が遠慮なくいーっぱい出せるように、今はお湯を溜めない方がいいかなぁ。うふふふふ」
将之は愉快そうに、知己の背に抱きついた。
「う……」
直に触れ合う背中からの温かさに、ときめかないわけがない。
だが、あまりの仕打ちだ。
(俺……初めてなのに)
これから先もあんな感じで、強制的に痴態を晒される。
容易に想像できて、無性に怒りが込み上げてきた。
さっきまでの虚脱感のすべてが回復したわけではないが、知己はわずかに戻った体力で腰を捻って
「初めてなのに、酷い!」
と肘をくり出した。
だがいつもよりも勢いを欠いた肘を避けるのは、たやすい。
知己の腰から手を離さずに上体だけを起こして将之は避けた。
「……ぁ……!」
腰を捻った知己と背後の将之が改めて目が合った。途端、腰を抱えられた姿を目のあたりにして、改めて真っ赤になるのは知己の方だった。
(くっそ。なんか俺ばっか……。ずるい!)
にやりと悪い笑顔浮かべて将之は
「初めてじゃないですよ。もう、何回と言わず……えーっと、三桁はしてますね。もうすぐ4桁かも」
平然と言い放つ。
「でも、俺は初めてだ!」
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