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おまけ 家永晃一という人物。門脇蓮は、かく語り。
海浜研究所の最寄りの駅。
他に待つ人がいない閑散としたホームで、家永、菊池は門脇を挟んでベンチに座り、電車を待っていた。
先ほどから家永は、必要最低限のことしか喋らない。
「家永先生、気持ちは分かるけど……」
トンビに油揚げを攫われたのだ。気落ちするのも無理はない。
(くそっ、おっさんめ!)
門脇にしても腹立たしい限りだ。
「あんま落ち込むなよ」
「……」
陽炎揺らめく線路の向こうを見つめる家永の横顔は、暑さなど感じないかのようにどこまでも冴えている。だが、門脇の言葉が聞こえないみたいに返事はない。
「知己先生、記憶ないくせにおっさんの所に行って大丈夫かな」
それにも家永は微動だにしない。
察しはするものの、明確に事情が分からない菊池も口を挟めずにいた。
それで門脇は一人で話を続けた。
「知己先生、メンクイなんだな。あんなぽっと来た奴を追いかけるなんて」
あれほど家永に全幅の信頼を寄せていたのに……と思わないでもない。
それに、やたらと門脇を怯えた瞳で見ていた。
(まあ、ああいう所が可愛いといえなくもない)
惚れた欲目でまだそんな風に思っていると、家永が「……俺は、平野の好みではない……ということか」と呟いた気がした。
「いや、俺は、家永先生もイケメンだと思うよ。おっさんとはタイプ違うけど」
(え? 門脇……?)
堰切ったように褒めだす門脇に、菊池は心の中で驚愕の声を上げた。
「イケメンでクール。出す指示は的確。理論に基づいた行動には無駄がねえ。かなり好きだ」
(かなり好き?!)
「一切、私情を交えないとこなんかは、理性的でかっこいいよ。知己先生のこともすげえ大事にして、おっさんみたいに独りよがりに振り回したりしない。オッサンなんて外見だけいい、中身はただの幼児じゃねえか。俺だったら絶対にオッサンじゃなく、家永先生の方を選ぶな」
(か、門脇ぃぃぃ!)
「選ぶ……?」
無表情だった家永が、その言葉に反応した。
「つまり門脇君は、俺の所に入りたい……ということか?」
来年は門脇も3年生。どこかの研究室に入らねばならない。
どうせ入るなら、自分に合った所がいい。
「以前から先生の所がいいって言ってたろ?」
(え? 挿れるの? 家永先生、門脇を挿れちゃうの?)
「もうずっと、俺は家永先生がいいって言ってたぞ」
(ひぃぃぃ! 御前崎ちゃーん!)
「……入れてもらいたいが為の下心丸出しの慰めをありがとう」
(挿れてもらいたい下心ー?!)
菊池は食堂。家永と門脇は実験室で過ごすことが多かった。
(二人きりで実験室に籠っていたが、門脇と家永先生はそんな関係にまで進んでいたのかー!)
「分かってもらえて嬉しいよ」
と門脇が笑顔で返す。
(門脇の告白を分かってもらえた……!?)
「君なら歓迎する」
という家永に
(しかも、相思相愛っぽーい!)
菊池は心の中で大パニックを起こして、携帯を取り出した。
―了・家永晃一という人物。門脇蓮は、かく語り。―
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