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「改めて、敦のミスコン1位祝ってー……」
またもや、カチーンと三人はグラスを合わせた。
「「「かんぱーい!」」」
「おめでとー!」
「ありがと……」
小さな声で、それでも嬉しかったらしい。美少年の敦がはにかんだように微笑むたたずまいは、天使そのものだ。
「良かったねー、今回は先生に棄権してもらって」
と章が言うまでは。
「全然、よかない!」
途端に鬼の形相になって、敦がグラスをテーブルにどんと置いた。
「棄権とかありかよ! 俺は正々堂々あいつに勝つ気だったのに。悪徳教師め、逃げやがって……!」
「仕方ないよ。先生は、『俺は絶対に出ないー!』って涙浮かべて逃げ回ってたんだもん」
「今回、賭けるものが何もなかったからな」
「美味い棒一年分じゃだめか」
「あいつは、めぼしい報償がないと頑張らない汚い人間だったってことだ」
(敦ちゃんの教師や大人への偏見は、相変わらず変わらないなー)
章は苦笑いを浮かべた。
「でもさ……先生のちょっと困ったようなべそかいた顔は可愛かったなー」
「困り顔とイキ顔は似てるっていうしな」
「俊ちゃん、そこで欲情しない!」
「してねーよ」
と言いつつ、俊也はさりげなく股間を隠した。
「せっかく特別審査委員長に、サプライズで中位さんに頼んだのに」
またもや将之の策略にハマり、前田女史は別の高校の文化祭に行かされた。代わりに来たのが、将之だ。
「だから、じゃないか? ライオさんの前だから『こんな格好絶対にできない!』って壮絶に嫌がってたように思える」
「あ、そだ。気付いた? 先生。中位さんのことを時々『中位さん』って呼んでたよね?」
「え? そうなのか?」
「前は『将之』って言ってたのに、何回か『中位さん』って呼んでたんだ。どういう心境の変化と思う?」
夏の影響で、いまだに時々「中位さん」呼びしてしまう知己だった。
「距離置きたいんじゃね?」
「だよね。僕もそう思った。ぷぷー、中位さん可哀そう。ぷーくすくす」
章は、大いに喜んだ。
「先生と中位さんが距離あると、ずいぶん嬉しそうなんだな」
(こいつ、まだ悪徳教師のこと狙ってんのか?)
と敦が怪訝な顔する。
「だって他人の不幸は蜜の味、幸せはマンゴー味。リア充爆発しろ」
「よく分からんが、章にとってどっちも美味いってことか?」
「違う。章はマンゴーやアボカド食べると喉が痒くなるんだ」
当然、幼馴染の敦は知っている事実を俊也は知らない。
「じゃあ、まあ、そういうことで……」
と章がグラスを掲げると、それに倣って俊也と敦もグラスを持ち上げた。
「「「今年もよろしくー!」」」
カチーンと透明な音が響いた。
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