240人が本棚に入れています
本棚に追加
共通試験にて
「頑張れよ」
「おう。任せとけ。じゃあ、行ってくるからなー」
俊也の挨拶に、知己と章は手を振って見送った。
「……なんで、章がここに居るんだ?」
さっきまで居なかったはずなのに、いつ現れたのだろう?
知己は隣の自分より数センチ背の低い少年を目視して、声なく驚いた。
「だって、俊ちゃんと先生を二人っきりにするわけにはいかないでしょ?」
八旗高校生で共通試験を受けるのは他にも15名ほどいるのだが、章はカウントしていないらしい。
「先生、知ってる? 俊ちゃんの勉強法」
「いや」
「中位さんに習ったやり方だって」
「へえ」
そう言えば、俊也は赤点を取らなくなった。
そればかりか、ぐんぐん成績も伸びている。
(将之が俊也の窮地を救ったんだな。将之……。なんだかんだ言って優しいいい奴だからな)
久しぶりに、将之のいい所を改めて認識した。誇らしくさえ思える。
「この間、『イチゴパンツの織田信長・ラノ先生、本能寺で明智光秀の謀反に遭う……ふふふ。先生、イチゴパンツとは昨今のJKも履かねえぞ。あざといぜ、くそ。そりゃさすがの明智も本能目覚めて下半身は謀反を起こしちまうよなぁ……』とか言ってたよ」
「なんだ、それ?」
「多分、なんでもかんでも先生と絡めて勉強してんだと思う」
(……将之、ろくなことしねえ!)
思わず心の中で罵る。
ついでに11月初めの嫌な記憶も蘇った。
(あいつ、うちの文化祭の時にも……)
「今年も女装ミスコンするんでしょ?」
あまりにはしゃいで聞いてくるので、変だなとは思った。
「楽しみですね」
「なぜ、お前が楽しみなんだ?」
「担当の前田君がその日偶然出張になりまして、仕方なく、僕が代わりに来賓で行くことになったんです」
絶対に「仕方なく」行く顔などしてない将之が来るのに、ミスコンなんかに出たくない。
来賓に来たら来たで、章が「中位さん、特別審査員長してよ」と図々しくも校長室に押しかけたのを断りもしないで快諾。
最後まで執拗に「勝ち逃げなんか許さん。出ろ」という敦をなんとか振り切って、知己は平和な秋をつかみ取った。
年明けて早々、将之の良くない所を再確認した気分だ。
最初のコメントを投稿しよう!