共通試験にて

2/11
前へ
/778ページ
次へ
「そんな煩悩の対象の先生と俊ちゃんを、二人っきりにするわけにはいかないでしょ? だから、休日だってのに、わざわざついてきてあげたんじゃない」  ついてきた……という割には現れ方が、今しがたやってきた風ではあったが。 「敦はどうした?」 「あの寒がりが、ここに来るわけない、ない。僕、一人だよ」 (こいつ、敦のこと好きだって言う割には、扱いはずさんなんだよな)  幼馴染で付き合いが長い所為か、分かり過ぎるくらい分かってしまうのが返って仇となっている。 (まあ、でも、こいつの歯に衣着せたい言い方は今に始まったことじゃないしな。敦も例外じゃないってのは……なんか可哀そうな気もするが)  好かれても、何も特別扱いされない。  長年一緒にいても、ちっともそういう雰囲気にならないのは、敦が特別鈍いわけではなさそうだ……と知己は思った。 「さて、試験も始まったことだし、引率の先生は暇だよね。どっかでお茶しよ。僕、先生と二人っきりで話したいことあったんだよね」 「……それが目的か」 「当たり前じゃない。何にもお得ないのに、こんな寒い所まで出てこないよ」 (さっき、俊也と俺の為って言ってなかったか?)  色々と言い返すと面倒臭そうなので、知己は 「一杯だけだからな」  とあらかじめ断りを入れると 「残業帰りのサラリーマンみたいだね」  結局、うだうだと言い返される羽目になった。 「ここでいいだろ?」  と、知己は試験会場の近くのコーヒーチェーン店に入る。 「いいんじゃない? あったかくて、嬉しいー」  章はコートを脱いで座席に置いた。  すぐに店員がやってきて、オーダーを取る。 「俺はブレンド。章は?」 「たっぷりカフェオレで」  よほど寒かったのだろう。  大き目サイズのカフェオレを注文した。 「このくっそ寒い中、入試の引率ご苦労様。……毎年この時期は、マジで寒いよね。引率の先生達は、こんな寒空の下、生徒が試験終わるのをひたすら待ってるの?」 「使う使わないは勝手だけど、試験会場には引率教師の控室はある」 「ふーん。そんなもんなの。知らなかった」  他愛もない話をしているうちに、注文の品が届いた。  飲み物が揃うのを待っていたのだろう。  章が 「それで先生に話したいことって……」  と早々に切り出した。  
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加