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「そんな煩悩の対象の先生と俊ちゃんを、二人っきりにするわけにはいかないでしょ? だから、休日だってのに、わざわざついてきてあげたんじゃない」
ついてきた……という割には現れ方が、今しがたやってきた風ではあったが。
「敦はどうした?」
「あの寒がりが、ここに来るわけない、ない。僕、一人だよ」
(こいつ、敦のこと好きだって言う割には、扱いはずさんなんだよな)
幼馴染で付き合いが長い所為か、分かり過ぎるくらい分かってしまうのが返って仇となっている。
(まあ、でも、こいつの歯に衣着せたい言い方は今に始まったことじゃないしな。敦も例外じゃないってのは……なんか可哀そうな気もするが)
好かれても、何も特別扱いされない。
長年一緒にいても、ちっともそういう雰囲気にならないのは、敦が特別鈍いわけではなさそうだ……と知己は思った。
「さて、試験も始まったことだし、引率の先生は暇だよね。どっかでお茶しよ。僕、先生と二人っきりで話したいことあったんだよね」
「……それが目的か」
「当たり前じゃない。何にもお得ないのに、こんな寒い所まで出てこないよ」
(さっき、俊也と俺の為って言ってなかったか?)
色々と言い返すと面倒臭そうなので、知己は
「一杯だけだからな」
とあらかじめ断りを入れると
「残業帰りのサラリーマンみたいだね」
結局、うだうだと言い返される羽目になった。
「ここでいいだろ?」
と、知己は試験会場の近くのコーヒーチェーン店に入る。
「いいんじゃない? あったかくて、嬉しいー」
章はコートを脱いで座席に置いた。
すぐに店員がやってきて、オーダーを取る。
「俺はブレンド。章は?」
「たっぷりカフェオレで」
よほど寒かったのだろう。
大き目サイズのカフェオレを注文した。
「このくっそ寒い中、入試の引率ご苦労様。……毎年この時期は、マジで寒いよね。引率の先生達は、こんな寒空の下、生徒が試験終わるのをひたすら待ってるの?」
「使う使わないは勝手だけど、試験会場には引率教師の控室はある」
「ふーん。そんなもんなの。知らなかった」
他愛もない話をしているうちに、注文の品が届いた。
飲み物が揃うのを待っていたのだろう。
章が
「それで先生に話したいことって……」
と早々に切り出した。
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