共通試験にて

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「ああ! もう、何してんの?!」  知己のと化した章が、テーブルに転がる豆を紙ナプキンを広げて拾い集めた。 「ごめん……。  って、それはこっちのセリフだ。唐突に何を言い出しやがる?!」  知己が言うと 「何って……。しがみついた敦ちゃんが超絶キュートでいい匂いしたから、その晩うっかり思い出して、僕が初めて射精したって話」  しれっと章が衝撃の説明をした。 「だから、しゃ……って、はぁぁぁ?!」  話す内容と章のテンションが釣り合わずに、知己の理解が遅れてやってくる。 「ちょっと、先生。いい年した大人がお店で、はしゃぐと迷惑だよ」 「あ、すまん」  と思わず謝った後、 「……いや、俺、はしゃいでないし」  冷静になって、ツッコむ。やはり章の言葉に、理解が追いついていない。 「……」  どういう顔をしたらいいのか分からずに、知己が困っていると 「何?」  と章が訊く。 「いや、お前……その……せ、精通、まだだったんだ?」  章に「何?」と訊かれて、何か言わなきゃと思った知己は、考えていたことをそのまま言ってしまった。言葉にした後に、プライベート過ぎる話にずかずかと踏み込んでしまったと後悔したが、それこそ後の祭りだ。 「ああ、それね。別にいいんじゃない? 『人の成長には個人差がある』って。『二次性徴が訪れるのは早くて10歳、遅くて18歳』って保健体育で習ったしね」  妙な所で教科名を持ち出され、知己が苦笑いを浮かべた。 「章、いくつだっけ?」 「今は18歳だけど、その時はギリ17歳だった。セーフ、セーフ!」  とにかく明るい上に軽い章に  「いや、でも、え? それで『き……(亀頭撫で)』とか『き……(騎乗位)』とかお前、言ってたのか?」  知己の疑問は止まらなかった。 「亀頭撫でとか騎乗位とか、それ言ったのが僕みたいになっているけど、全部、先生の大好きなライオさんなんだからね!」  よく「き……」だけで知己の喋った内容が分かったなというくらい、的確に章は突っ込んだ。 「ひっ!」  爽やかな冬の朝に不似合いな章の言葉に、知己が一瞬息を飲んだ声を発して手を振って章を制した。 「……だ、大好きとか言うな」  心持ち声が小さくなって、三十路に突入した男が「大好き」ぐらいで動揺している。 「言っちゃいけないとこって、そこ?」  18歳の章が、 (妙な所がピュアなんだからなぁ)  と呆れて、知己を見た。  
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