240人が本棚に入れています
本棚に追加
「ああ! もう、何してんの?!」
知己のおかんと化した章が、テーブルに転がる豆を紙ナプキンを広げて拾い集めた。
「ごめん……。
って、それはこっちのセリフだ。唐突に何を言い出しやがる?!」
知己が言うと
「何って……。しがみついた敦ちゃんが超絶キュートでいい匂いしたから、その晩うっかり思い出して、僕が初めて射精したって話」
しれっと章が衝撃の説明をした。
「だから、しゃ……って、はぁぁぁ?!」
話す内容と章のテンションが釣り合わずに、知己の理解が遅れてやってくる。
「ちょっと、先生。いい年した大人がお店で、はしゃぐと迷惑だよ」
「あ、すまん」
と思わず謝った後、
「……いや、俺、はしゃいでないし」
冷静になって、ツッコむ。やはり章の言葉に、理解が追いついていない。
「……」
どういう顔をしたらいいのか分からずに、知己が困っていると
「何?」
と章が訊く。
「いや、お前……その……せ、精通、まだだったんだ?」
章に「何?」と訊かれて、何か言わなきゃと思った知己は、考えていたことをそのまま言ってしまった。言葉にした後に、プライベート過ぎる話にずかずかと踏み込んでしまったと後悔したが、それこそ後の祭りだ。
「ああ、それね。別にいいんじゃない? 『人の成長には個人差がある』って。『二次性徴が訪れるのは早くて10歳、遅くて18歳』って保健体育で習ったしね」
妙な所で教科名を持ち出され、知己が苦笑いを浮かべた。
「章、いくつだっけ?」
「今は18歳だけど、その時はギリ17歳だった。セーフ、セーフ!」
とにかく明るい上に軽い章に
「いや、でも、え? それで『き……』とか『き……』とかお前、言ってたのか?」
知己の疑問は止まらなかった。
「亀頭撫でとか騎乗位とか、それ言ったのが僕みたいになっているけど、全部、先生の大好きなライオさんなんだからね!」
よく「き……」だけで知己の喋った内容が分かったなというくらい、的確に章は突っ込んだ。
「ひっ!」
爽やかな冬の朝に不似合いな章の言葉に、知己が一瞬息を飲んだ声を発して手を振って章を制した。
「……だ、大好きとか言うな」
心持ち声が小さくなって、三十路に突入した男が「大好き」ぐらいで動揺している。
「言っちゃいけないとこって、そこ?」
18歳の章が、
(妙な所がピュアなんだからなぁ)
と呆れて、知己を見た。
最初のコメントを投稿しよう!