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「僕は本当に悩んでいるんだ。別に親友でもいいやーって思ってたのに、よもや敦ちゃんで夢精する日が来るなんて」
「……」
やはり、赤裸々な話を朗々と話す章に
(いつもとは違った意味で、章の歯に衣着せたい……)
と知己は切に思った。
唯一の救いは、冬の朝のコーヒーチェーン店。
利用客が、ほとんどいないことだった。
「多分、今の僕は敦ちゃんの結婚式で友人代表スピーチなんか絶対に無理。花嫁押しのけて、僕が敦ちゃんの隣に座っちゃいそう」
(やりそう……)
スーツ着た章が、「友人代表のスピーチ」で前に呼ばれた直後、花嫁を突き飛ばしてその席に平然と座る姿が容易に想像できた。
(あれ?)
「新婦の方に、なりたいのか?」
「ものの例えだよ。そこは真面目に受け取らないで」
(さっき真面目に聞けって言ったくせに……)
章流の照れ隠しだろうか。
なかなか話が進まない。
「そう言う訳で僕は、敦ちゃんのあの可憐な細腰に僕の熱き欲望をぶち込みたい」
「最悪な言い方、やめろ」
照れ隠しにもほどがある。
「その為にはどんなシチュエーションに持ち込むのがいいのかな。やっぱ無理矢理すると嫌われるでしょ」
「それだけは絶対にヤメロ」
たまりかねて知己が強く諭すと、勢いに驚いて章がびくっと身を強張らせた。
少しの間を置いて
「せ……」
章が、ゆっくりと
「……先生の初めては無理矢理だった……と。メモメモ」
と、とんでもない発言をした。
「お、俺のことはどうでもいいだろ?」
冬だというのに滝のような汗をかいて、知己は目を反らした。
「冗談はおいといて……」
(冗談だったのか!)
「実は来月、敦ちゃんの誕生日なんだ。これであの子もやっと18歳! だから法的にもエッチOK」
(悶々としている割には、その辺はちゃんと手順踏むんだ)
母が元・代議士だし、やたらとその辺の知識はある。
(そういえばこいつの進路も法学部だったな)
「お酒でも飲ませて、前後不覚になったところでそういうエッチシチュにもっていけないかなー。うふふ」
(さっき、無理矢理はダメだと言ったばかりなのに)
年に似合わぬ卑怯な手段を語りながら、章が微笑んだ。
「お前……。酒、たばこは20歳からだぞ」
「え? そうだっけ?」
その上、あやふやな法律の知識だった。
「ま、いいや。裸リボンで『プレゼントは僕だよー』……なーんちゃって」
さらに発想は、いまいち昭和だった。
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