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「とりあえず、教師としてひとこと言わせてくれ」
「何?」
さっきまでの相談を聞いていたら、
(俺は「教師」と認識されてないのでは?)
と思われた内容に、念の為、知己は自分の立場を伝えた。
案の定、章はキョトン顔だ。
「不純異性……いや不純同性交遊は退学だ」
「え? そうだっけ?」
と言いつつも章は特に気にしてない。
「プライベートに介入して来るなぁ、学校は。別にいいじゃない、ねー?」
それどころか、教師の知己に同意まで求めてくる。
事の重大さに全く気付いてなさそうな章に、知己はため息を一つ吐いた。
「お前……。せっかく大学も決まったのに、高校卒業資格はく奪で、当然学校推薦も取り消し。路頭に迷うぞ」
「ちっ。それがあったか。面倒なシステムだね」
高校の平均装備の校則に文句を言い出した。
「普通だ」
「じゃあ、この持て余す悶々とした感情を敦ちゃんで晴らすのはもう少し先だね」
「お前……」
(照れ隠しでも言い方が、酷過ぎる)
「仕方ない。3月1日の卒業式まで待つかぁ」
「いや、お前ら3月31日まで高校生だからな」
「え?」
章は、鳩が豆鉄砲を食ったらこんな顔するんだろうなという顔をして声を上げた。
「何、それ? こっちは今すぐでもシタイ所を2月まで我慢。それを3月頭まで我慢しようと思い直してたのに、更に一カ月も伸ばすの? それ、酷くない? 本当になんなの?『遠足は家に帰るまでが遠足だー』みたいな謎の教師の言葉は」
不満が朗々と淀みなく流れ続けた。
「謎じゃねえよ。遠足の話は俺もよく分からんが、卒業しても『在籍期間』っていって、お前らはまだ高校生扱いなんだ。お前は初めて聞いた風だけど、これは常識の話なんだからな」
「……さすが。仮にも高校教師だね」
やはり教師と思ってなかったようだ。
章が褒めた風の言葉に、知己は
(絶対に褒めてない)
と思った。
「仮じゃない。正真正銘の教師だ」
という知己の言葉を、もはや章は聞いていない。
「じゃあ、4月1日まで『プレゼントは僕だよ』はお預け?」
(もれなく敦に、エイプリルフールと思われて終わりそうだなぁ)
と知己は思った。
「いや、その前にもう一個手順を踏め」
「えー。何だよ、もう」
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